海面上昇で集団移転、パナマで今後数十年間で集落60超が水没の可能性…島民「私たちが先進国の代償払っている」
アゼルバイジャンで開催中の国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)は、災害に弱い途上国に先進国が支援する「気候資金」のあり方が主要テーマの一つとなる。中米パナマでは今年、海面上昇で水没する可能性がある島の住民が集団移転した。今後数十年間で60を超える集落の移転が必要になると見込まれ、対策が急務となっている。(パナマ北東部クナ・ヤラ自治区 大月美佳、写真も)
カリブ海沿岸のクナ・ヤラ自治区。10月2日、船着き場を訪れると、手芸品「モラ」を縫い付けた民族衣装を着た先住民「クナ族」の女性や親子らがボートに乗り込んでいた。1・4キロ・メートルほどの沖合に浮かぶ島ガルディ・スイドゥブの診療所に向かうという。
島は海面上昇で消滅する恐れがあり、島民は6月、内陸部への集団移転を始めた。しかし、移転先の近くに医療機関がないため、今も多くの人々が島と行き来しながらの生活を強いられている。
ヤシやトタンぶきの簡素な家が密集する島は、海抜わずか50センチほど。雨が降ると海面が上昇し、土間に海水が流れ込むため、住民は土のうを積んで自宅を守っている。海沿いの家はヨットが近くを通るだけでも波が起きて水浸しになるほどで、人口増に伴う住環境の悪化も重なり、住民も移転を望んでいたという。
政府は1220万ドル(約19億円)を投じて自治区の内陸部に300戸の住宅を建設し、これまでに約1400人が移った。しかし、移転先の住宅が足りず、28世帯が今も島で暮らす。
「クナ族は木を大切にして生きてきた。気候変動は私たちの責任ではないのに、森を破壊した先進国の代償を払っている」。島に残る商店主アウグスト・ウォルテルさん(73)は不満を漏らした。
スミソニアン熱帯研究所(パナマ市)によると、島周辺の海面は近年、年5・0~5・4ミリのペースで上昇し、1960年代の3倍を上回る。同研究所のスティーブン・パトン氏は「上昇ペースは加速する可能性が高い」と警鐘を鳴らす。