北海道寿都町&神恵内村「核のゴミ処分場」候補地で「90億円の交付金」と「放射能のリスク」の間で揺れる住民たち
神恵内村の人口は、90年(約1600人)からわずか30年間で750人まで半減した、寿都町より衰退が早い過疎地だ。 16~17年前に閉店した村の中心部にあるスーパーは今も空きテナントのまま、廃屋だけが残っている。村にコンビニはなく、高齢者が多い村民の憩いの場になっていた村営温泉は大幅な赤字続きで給湯パイプの修理代を捻出できず、4年前に閉館した。 この小さな村で文献調査への応募を主導したのは地元商工会だ。関係者がこう明かす。 「寿都町と応募時期が重なったため、お互いにタイミングを示し合わせたのでは?とよくいわれますが、偶然です。この村では赤ちゃんがほとんど生まれない一方で、高齢者は年に2桁の規模で亡くなられていく。 若者の離村も止められず、社人研(国立社会保障・人口問題研究所)の推計を上回るスピードで人口が減り続けている。村を存続させるために、総額90億円という交付金は魅力的でした」 20年9月、商工会が村議会に文献調査への応募検討を求める請願を出すと、すんなり採択された。 村議のひとりがこう明かす。 「現在、8人いる村議会議員の中で、賛成派は7人、反対派はひとり。この村が寿都町と違うのは、原発アレルギーがほとんどないということです。 泊原発がある泊村の隣接自治体として原発立地交付金をもらい続け、その原発マネーで小中学校の校舎を建て替えたり、村営保育園を新築したりしてきた。原発の恩恵を受け続けてきた村だから、この村に核ゴミや調査の受け入れに声を上げて反対する人はほとんどいません」 村内に暮らす住民の男性もこううなずく。 「小さな村だから、両隣3軒が皆親戚。その中には泊原発で働いている人も少なくありません。そんな環境で、核ゴミ反対を叫ぼうものなら、この村に住めなくなります」 だが、ある商店の店主がこんな話を耳打ちする。 「処分場の設置に現実味があると思っている住民は少ないと思いますよ。何せ20年後の話だし。それに寿都から車で来たのなら、国が『適地』とした場所を見たでしょう。山、国道、岸壁、海......平地のないあんな所に処分場を造れるはずがない。 どうせ、最終的にほかの候補地が選ばれるとみんな思っているから、交付金目当てに調査に賛成するんです。この考え方に罪悪感をまったく抱いていない、と言ったら嘘になりますけどね」 "核のゴミ箱"に良心まで捨てているわけではないのだ。 取材・文・撮影/興山英雄