北海道寿都町&神恵内村「核のゴミ処分場」候補地で「90億円の交付金」と「放射能のリスク」の間で揺れる住民たち
三木さんの夫は町内の水産加工会社に勤めていたが、その会社にまで、「お宅の魚は今後買いません」「ふるさと納税もしません」などと中傷めいた匿名の電話が頻繁に来るようになったという。 以来、核のゴミに関する情報を積極的に見るようになり、「処分場誘致に走る町政を止めなきゃ」と、反対派の住民で構成される「町民の会」の立ち上げメンバーに参加した。「そしたら、今まで仲良く話していた人とも話ができなくなりました。私と話すと、その人が周りから『活動に勧誘されている』とか『反対派になった』と思われるだろうから、それが申し訳なくて......」 文献調査が開始されて以降、町では"見知らぬ人"が増えたという。ある時期には真冬にバイクで町内を走り回り、各地区の家じゅうのポストに自作の"核ゴミ反対"のビラをまきまくる老齢の男性が現れた。 町民の会の事務局には、「脱原発を訴えるフェスをやりたい」「デモや演説をやらせてほしい」といった、町外・道外の団体からの要望も多数舞い込むようになった。 「同じ誘致反対でも、運動の方針が私たちとは合わないので、丁重にお断りしたのですが......」(三木さん) 反原発を訴える"部外者"たちが、寿都町の反対派住民をあおる構図もあるようだ。 ■交付金という「手の汚れないお金」 寿都町では、文献調査が開始されて以降、2度の選挙が行なわれている。21年の町長選では現職の片岡町長が、処分場誘致反対を訴える対立候補を僅差で破り、6期目の当選を果たした。 23年の町議会選でも、概要調査の進展に賛成の議員が5議席、反対の議員が4議席と、賛成派が過半数を占める格好となった。この選挙結果を寿都町民の民意と受け取ることもできる。
ただ、記者が寿都町に入って2日目、ここまで取材に応えてくれるのは反対派住民ばかりだ。その理由について、ある女性住民はこうつぶやいた。 「自分の身を守るためにはね、黙るしかないの。賛否の声を上げたら敵をつくるでしょ?」 この女性は「賛成派の人で、声を上げている人は町内にふたりいる」と教えてくれた。そのうちのひとり、町内で花屋を営む斉藤孝司さん(49歳)は、15年から1期4年間、町議を務めた人物だ。文献調査の次の概要調査に進むことに前向きな町長に賛同している。 「寿都町の財政は逼迫していて、今のままでは今後ますます厳しい状況に陥ります」 斉藤さんがその原因のひとつとして挙げたのが町営の風力発電事業。現在、町内の海沿いに11基の風車が稼働し、これが、年間7億円程度の売電収入を生んできた。 ただ、この収入を支える再エネの固定価格買取制度により、電力会社への売電開始から25年たてば、寿都町の場合はこれまで20円/kW前後だった売電価格が、8円程度まで下落する。すでに寿都町の場合、最初に建てた3基が今年2月に満期25年を迎え、残りの風車も翌年以降、続々とそうなるのだという。 「この売電収入の大幅減が町の財政に与える影響は大きい。近年は体育館や老人福祉施設など、箱物を建ててきたツケもあり、この財政難を放置すれば、寿都町は数年で財政再生団体になるかもしれない。文献・概要調査で得られる90億円という『手の汚れないお金』が目の前にあるなら、それに頼るのも仕方ありません」 ■NUMO職員の献身 片岡町長が文献調査受け入れを表明してから3年余り。最近は「反対派の勢いは目に見えて衰えている」と神さんは危惧する。 「反対派住民の集会に参加する人の数でいうと、勢いがあった2年前には毎回100人以上、多いときは500人を集めたものですが、今は3桁に届かなくなっています」 その背景には、地層処分の安全性について、地道な普及・啓発活動を行なってきたNUMOの存在がある。 21年3月、寿都町の中心部にNUMOの出先機関、「NUMO寿都交流センター」が開設され、7人の職員が常駐して住民との交流を深めてきた。職員の多くは東電、中部電などから出向してきた電力会社の社員だ。 だが、センター開設から昨年12月頃までの約3年間、職員たちは寿都町から40㎞以上離れた岩内町に居を構えており、車で1時間近くかけて通勤せざるをえない状況が続いていた。そこには特別な理由がある。 21年9月、文献調査に応募した片岡町長宅に、町内に住む70代の男性が火炎瓶を投げ込む放火未遂事件が起きた。 「幸い火災は起きず町長も無傷でしたが、この事態を重く見た警察がNUMO側に『職員は町内に住まないほうがよい』と助言したそうです」(地元住民) こうして岩内町から通勤する格好となったのだが、あまりに不便だと寿都町は昨年暮れにNUMO職員専用の住宅を町内に確保した。その場所はちょうど空きフロアになっていた消防庁舎の2階だという。職場までは徒歩10分程度だ。 NUMO寿都交流センターは、寿都町民向けに使用済み核燃料の再処理工場がある六ヶ所村や、核ゴミ処分の地下研究施設がある幌延(ほろのべ)町(道北・宗谷管内)への1泊2日の視察ツアーを頻繁に開催している。交通費やホテル代はNUMO持ち、関連施設の視察後はバスで周辺の観光スポットに案内してくれ、初日の夜には酒席も用意されるという。