アラブの春やイラク戦争が中東に与えた影響とは? 黒木英充、高橋和夫、萱野稔人らが議論(2)
世界と中東の相互作用が現在を形作る
萱野:なるほど。今、パラダイムの転換、大転換だというお話ありましたけども、黒木さんは何が中東を理解するためのポイントだというふうにお考えですか。 黒木英充:今、鈴木さんがお話になったように、その中東だけで話は収まんないですよね。アメリカが出てくる、ロシアが出てくる、中国が出てくるっていう感じでね。これはもう、なんて言うか、それらがみんな総合的にお互いの関係の中で作ってるものだというふうにまず考えるべきだと思うんですね。 萱野:お互いの関係の中で作ってる。 黒木:つまり、中東、中東って言ってもいろいろですけれども、そこと、それぞれの、もう世界中がそことの関係、していると。もちろん、濃い薄いはあるにしてもですね。もちろんアメリカっていうのはそこでは一番大きな関わり方だろうと思いますけども。ですので、その相互的な問題として、だから、アメリカも変わりつつあるわけですよね、そういう意味では。ロシアも変わりつつある。だから、まずそういうふうに考えるべきだっていうことが1つですね。それとあとやっぱり、いくつか大転換期にあるっていうのは私もまったく同じ意見なんですが、でも、変わらないことも、変わらないっていうか。 萱野:変わらない部分もある。 黒木:なんて言いましょう。長期的な、もっと長期的な要素っていうのもあるわけで、それは例えば、例えば今イスラムのいろんな過激思想とか、ジハード主義とか、いろんな考え方ありますけども、いわばそれ突き詰めていくと、例えばイスラムが始まってまだ間もないころの7世紀に、自分と意見の違う人たちは、もうこれはイスラム教徒としては認めないって言って、ほかの多くの人たちから離れていく人たちっていう、そういう宗派みたいなのも表れてくるんですね。で、もう正しい信仰者ではないと、彼らは。だから、そのためには戦って殺してもいいんだっていうような考え方ですね。ですから、そういうものがいわば今、それ、その後もいろんな形でその考え方は、例えば18世紀のサウジアラビアの今のサウジアラビアの元になったワッハーブ派っていうのが出てきたときなんかにも、そういう考え方がよみがえってきてるわけですね。ですから、今起こってる、これは時代錯誤的なアナクロの話ではなくて、非常に古い層がぽっと顔を出してくるということがあるわけですね。それが1つですね。 それとあとは、今度はそのヨーロッパとの関係、欧米との関係で言いましても、例えばそれこそ今、イスラム国が十字軍ということを盛んに宣伝の材料として使ってますけれども、このイメージっていうのはやはりずっとあるわけですね。 萱野:要するにイスラム教徒からすれば、キリスト教徒がわれわれを侵害してるんだと。もう侵略しようとしてるんだっていう。 黒木:キリスト教徒っていうか、外のキリスト教徒ですね。自分たちにも、中東にもキリスト教徒はいっぱいいますからね。ですから、そうやって外から侵略してくるっていう、この感じですよね。 萱野:それはやっぱり欧米だっていうことになるんですよね。 黒木:最近の話ではなですね。で、それが、でも、よく考えてみると、今のシリアのアサド政権側の下で暮らしてる人たち。これもいろんな考えの人たちいますけれども、シリアの人口の中では大半を占めてるわけですけれども、そこにいる人たちからすると、いや、イスラム国こそまさに十字軍的に世界各地から集まって自分たちを攻撃してくるっていう、スンニ派の十字軍みたいな、そんな言葉さえ聞かれることもあるわけですが。ですから、まさに相互的な問題として。 萱野:そこは一枚岩じゃないですよね。でも、やはり外から侵略されてて、自分たちがやられてるんだっていう意識はものすごくあるっていうことですね。 黒木:ありますね。ただ、それもまた問題なんですけれども、中から外を引っ張り込むっていうこともあるわけです。隣のライバルをやっつけるために外の勢力を利用するっていうのは、この地域ではよくあることなんですよね。だから、常にサッカーをやってるように常に動いてるわけですよ。 萱野:それはでも、本当にわれわれからすると分かりにくいというか、何が起こってるのかっていうのはよく分かりませんよね。 黒木:サッカーをやるようなつもりになって。いくつかゴールがあって、なんかいろんなチームが入り乱れてて。 萱野:チームも何チームもあって、途中でユニフォームを脱ぎ変えるような形で。 黒木:入り乱れて、変えてると。そんな感じでやってる。 萱野:そうすると、われわれからすると、あれ? って。この前まではこういう力関係だったのが、今度はまったく違う勢力図になってるとか。 黒木:なってるわけですね。 萱野:別のところで紛争始まっちゃったりとか、やっぱりどんどん起こるわけですね。 黒木:そういうことですね。 萱野:それだと本当にわれわれも分からないっていうことになるとと思いますけど。 黒木:そうですね。だから、アメリカとロシアの力っていうのが、ここ20年ほどの間にぐーっと弱くなってきて、その分、そのさっきのサウジアラビアとか、今のトルコとか、あとは湾岸の、サウジアラビア以外の国々もいろんな形で動き出してるわけですよね。それぞれの自分の国の体制とか環境とかいろんな思惑があって、そういう多極的な、多極的な混乱ですね。 萱野:アメリカの影響力が中東で落ちたっていうのはよく言われますけど、ロシアの影響力も下がってると考えたほうがいいんですか。 黒木:ソ連のときから考えれば、やはり両極で押さえていたっていう、なんかその仕組みが崩れているっていうことは確かだろうと思います。これは高橋さんのほうがお詳しいと思いますけど。