アラブの春やイラク戦争が中東に与えた影響とは? 黒木英充、高橋和夫、萱野稔人らが議論(2)
THE PAGE
THE PAGEが放送した生放送番組、THE PAGE 生トーク「中東とどう向き合うか~イスラム国から日本外交まで~」。出演は、黒木英充・東京外国語大学教授、鈴木恵美・早稲田大学イスラーム地域研究機構招聘研究員、高橋和夫・放送大学教授。司会・進行は、萱野稔人・津田塾大学教授、春香クリスティーンさん。 以下、議論の第2部「中東の今を理解するためのポイントとは? アラブの春やイラク戦争まで」を議論した部分の書き起こしをお届けします(第1部はこちら)。 ※討論の動画は本ページ内の動画プレイヤーでご覧頂けます。
パラダイムの転換期にある中東
以下、書き起こし 萱野稔人:はい。中東の今を理解するポイントは何か。今までのお話も踏まえまして、今の中東を理解するためには、何に注目したらいいのか、何がポイントになるのかっていうことをちょっとお話しいただければなと思うんですけども、まずじゃあ鈴木さん。 鈴木恵美:ポイントもいくつもあってなかなか難しいんですけれども、1つは今現在の中東がパラダイムの転換期にあるということだと思うんですね。 萱野:パラダイムの転換期。 鈴木:はい。これまでの中東、そうですね。50年に一度、100年に一度、起こるか起こらないかぐらいの大きなこう、いろんな大転換期にあると思うんですね。 萱野:そうですか。 鈴木:ええ。例を挙げると本当にいくつもあるんですけれども、例えば、アメリカの対中東政策の基軸国、要の国だと言われてきたエジプトとサウジアラビアにしても、アメリカとの関係1つ取ってもこの数年でだいぶ変わったわけですね。 萱野:そうですか。 鈴木:そうですね。エジプトは非常に親米、今でも基本的には親米ですけれども、アメリカべったりの国だったわけですけれども、それがロシアに接近して。で、ロシアが最近ウクライナ情勢でちょっと歩が悪いということになると、去年12月ぐらいから急速に中国に接近していて、これまでの中東って言ったらサウジアラビアとエジプトががっちりアラブ諸国を束ねるっていうような形がちょっと崩れてきてると。アメリカに石油を安定的に供給するためのタッグっていうのがちょっと崩れてきていると。 萱野:エジプトが例えば、ロシアや中国に接近する理由ってなんですか。 鈴木:もうこれは、エジプトがこれまでアメリカからいろいろ援助してもらってたわけですけれども、2013年に軍事クーデターが起きて、で、軍事クーデターで成立した政権を、アメリカとしては大々的に支援することができないわけですから。 萱野:一応そうですよね。軍事クーデターで成立したっていうことで。 鈴木:そうですね。だからといってアメリカ政府はエジプトを切ったりしないわけですけども、関係はやはり、相対的には悪くなって、援助金もちょっと減ってるわけですよね。 萱野:そうですか。サウジアラビアもアメリカべったりじゃなくなってるんですか、今。 鈴木:そうですね。ちょっとシーア派とかそういうちょっと話が難しくなっちゃいますけども、1つにはよく言われてるのはシェール革命ですよね。アメリカでたくさんエネルギーが自分たちで調達できるようになって、もうサウジアラビア要らないよというような方向に向かってきてると。 萱野:アメリカ自身もそういう方向に向かってる。 鈴木:そうですね。こういった感じでだいぶこれまでの中東関係、アラブ諸国の域内のパワーバランス、あるいはアメリカとの関係、ロシアとの関係っていうのも、がらっと今変わりつつあるという、非常に転換期にあるということですね。なので、なかなか理解するポイントとしては難しいんですけれども、今はいろんなものががらがらと動いているときだっていうことを1つにはやっぱり知っておくべきだと思うんですね。 萱野:そのパラダイムの転換、要するに大きな枠組みが変わるんだということだと思いますけど。 鈴木:そうですね。 萱野:今外交の話だったじゃないですか。内政って、国内的な状況でのパラダイムの転換っていうのはあるんですか。 鈴木:そうですね。それは地域なり、1カ国、1カ国でだいぶ状況が違うので、それぞれ見ていかないといけないとは思うんですけれども。 萱野:一言で言うと、でも、あの地域で起こってる国内的なパラダイムの転換があるとすればなんですか。 鈴木:そうですね。初めのテーマともちょっと重なりますけれども、これまでの秩序が崩壊したわけですから、その秩序を再生しよう、復活させようという勢力が強いのがエジプトですけども、もうずっと混迷しているのがシリアですよね。アサド政権はこれまでの政権を維持しようとしてますから、そういう状態であるとか、もうリビアも完全に内戦状態ですから、もう崩壊しちゃってるわけで、そういった感じでいろんなこう、まあ、枠組みが崩れているっていうことですね。