社長だった父の遺書「もう歯ブラシに金をかけるな」 それでも独創的な歯ブラシを手がける「ロールモデル」無き女性経営者の思い
化学物質過敏症の人たちも使える、竹の歯ブラシなどで注目される歯ブラシメーカー「ファイン」。1948年に創業し、夫から妻、そして子へと事業承継する形で続いてきた。2010年に3代目社長となった清水直子氏は、「事業承継を機に会社は大きく変わった」と語る。ロールモデルが少ない「女性」の後継者として、どのような思いで事業を継ぎ、展望を描いているのか聞いた。 【動画】専門家に聞く「事業承継はチャンスだ。」
◆女性後継者のロールモデルがいないことで多くの苦労を経験
――実の母から事業承継をした際、苦労したことを教えてください。 ひとつは、製造業界の女性後継者というロールモデルがほとんどなかったことです。 母の姿しか見てこなかったので、いざ自分が社長になったら「どんなふうに考えれば良いのか」「どんな観点で判断を下せばいいのか」が分からず、最初は苦労しました。 経営者が集まるセミナーに参加したこともあるのですが、そこで話されているのは成功例が多く「私には同じようにはできない」と落ち込んで帰ってくることばかりでした。 今は中小企業診断士の方のサポートも受けながら勉強していますが、そもそも誰にどう相談したら良いのかも分からなかったです。 そうした経験から、今は一般社団法人「日本跡取り娘共育協会」に入っています。 私はもうベテランの枠なのですが、親の遺産や株のこと、結婚する際に名前はどうしているのかなど、身近なことを話せるので、すごくありがたいと思います。
◆業務フローを一新。社外の人材を採用したのをきっかけに会社が好転
――2010年の事業承継当初、ファインにはどんな課題がありましたか? 営業業務も製造業務もブラックスボックス化していたことです。 父も母もマネジメントがあまり得意ではなかったのと、小さい会社だったこともあり各営業担当や工場長に一任していた業務が多過ぎました。 そもそも発注書がなかったり、在庫管理ができていなかったり。 このままではまずいと思ったので、「何が問題なのか」「どうしていきたいのか」をひたすら洗い出しました。 これにより業務フローが一気に整理され、無駄な作業や損失が出ることがほとんどなくなりました。 ――他に取り組んだことがあれば教えてください。 大手企業の工場に勤めた経験がある方を2名、工場で採用しました。 マンネリ化していたところに外部の意見が入ったことで、こんなにも変わるのかというくらい会社の雰囲気が良い方向に変わりました。 もともとファインは、社員数が少なく定着率もかなり高い会社なので、新しい風を入れるという意味で定期的に新しい人を採用するようにしています。 正社員ではなくデスク貸しの業務委託のケースが多いのですが、それでも既存社員にとって良い刺激になっているようです。 人材の入れ替えや新規採用は、会社を筋肉質にしていく上では欠かせないものでしたね。