社長だった父の遺書「もう歯ブラシに金をかけるな」 それでも独創的な歯ブラシを手がける「ロールモデル」無き女性経営者の思い
◆新しいことにチャレンジしつつ、“ファインの良さ”も守っていきたい
――両親の代から続く、「ファインの良さ」「あえて変えなかったもの」はありますか? ファインの良さは、社内に対立構造がない社風です。 「営業だから」「工場だから」と対立したり遠慮したりするのではなく、お互いを尊重しながら仕事をしている雰囲気があります。 本社と工場はオンライン画面でつないで「おはようございます」「お疲れ様」といつでも声をかけられるようにしており、連携も緊密です。 商品における「ファインらしさ」も大切にしています。 利益だけを考えると、もっと商品数を増やしたり、競合と似たビジネスモデルで商品を開発したりするほうが良いのですが、それはファインらしくありません。 同じ層のお客様をターゲットにするにしても、価格の安さとは異なる切り口でファインの商品を手にとってもらいたいと思っています。 ーー最後に、今後の事業展開を教えてください。 実は、父が亡くなる時、遺書に「歯ブラシ事業にはもうお金をかけるな」と書いてありました。 1~3カ月に1本、200~300円の歯ブラシを買うとすると、1年で約2000円、60年でも12万円にしかなりません。 とても小さな市場で、今後も大きく拡大することはないと父は思っていたのでしょう。 とはいえ、歯ブラシは誰にとっても欠かせないものです。 虫歯になったら歯医者さんで治療してもらえますが、歯医者を出る時には「歯磨きをしっかりしてくださいね!」と言われますよね。 歯磨きを徹底していれば、歯周病からくるさまざまな病気のリスクも減らすことができます。 それから、歯は胃や腸と違って自分である程度コントロールしやすい場所でもあります。 しかも手入れにそこまでお金もかからない。 だからこそ、歯ブラシはもう少し日の目を浴びても良いのではないかと思うのです。 一方で、歯ブラシで使われるプラスチックは大きな環境問題にもなっています。 だからこそ、竹の歯ブラシをはじめとしたエコな歯ブラシを作ったりすることで、環境に優しい事業を続けていきたいです。 3年前、樹脂事業もスタートし、今は会社として新たなフェーズに入ったところです。 そんな会社に共感する若い世代が入社してくれたり、さまざまな企業がうちの技術を活用してくれたりしたら嬉しいですね。
■プロフィール
ファイン株式会社 代表取締役社長 清水直子氏 1967年、東京都品川区に3姉妹の末っ子として生まれる。東洋女子短期大学(現:東洋学園大学)欧米文化学科を卒業後、新卒で貿易商社に事務職として入社。入社2年目で退社し、父が経営するファイン株式会社に入社。その後自身の母に代替わりした同社で1994年から取締役、2006年から副社長を経験し、2010年、3代目(同業からは4代目)の社長に就任する。歯ブラシの製造だけでなく、最近はコンサルティング事業や樹脂事業などをスタートさせるなど活躍の場を広げている。
取材・文/川島愛里