申真衣さん“ゴールドマン・サックス時代”の上司・キャシー松井さんから得た価値観とは?|VERY
──おふたりはリーダーとして「(日本の)女性の働く環境の未来」についてどう捉えていらっしゃいますか?
申さん:私が入社したときは会社から歩いて5分の距離に託児所があって、4月に公立保育園に入る前に利用できる企業託児所があるのは、働き続ける選択をする上で大きな安心材料でした。ゴールドマン・サックスには2000年初頭から、女性社員の採用や促進、ネットワーキングやメンタリング、キャリア構築を支援する女性のネットワークがあり、託児所ができたのは、キャシーさんをはじめとする当時の女性ネットワークの方々のおかげです。 キャシーさん:私が最初の子を出産したのは1996年。当時の4カ月の育児休暇をフルで使って、元の席に戻りました。でも、社内では実力のあるシニアの女性が辞めていくケースも。事情を分析すると「託児所がない」という理由があったことが気になって。2008年、当時は金融危機まっ最中ではありましたが、女性社員を中心とした声を受け、会社のマネージメントが六本木ヒルズのオフィスの近所に託児所を設けることになりました。 申さん:私が働いていたときの実感としては、出産や育児で会社を辞める女性はほとんどいませんでした。すぐ近くの託児所で昼休み授乳もできる。働いていて一緒にいる時間が少ないから「そのぶん授乳しよう」と、母としてできることの選択肢が増えたのもありがたかったと思っています。 キャシーさん:子どもや孫の世代に「上の世代が何もしなかった」と思われたくないですよね。女性を取り巻く環境は段階的ではありますが、確実に変化しています。私が1999年にウーマノミクスを提唱した頃は人権や平等問題に興味を持つ人にしか理解のなかった多様性、ダイバーシティという言葉とその解釈が広まり、企業の多様性の現状を透明化する“見える化”の推奨、女性の就業率も増加しました。コロナ禍直前まで女性の就業率は欧米を超えていたことは成果だと思います。一方で、何が変わらないか。働く女性の半数は相変わらず非正規雇用で、マネージャークラスにはなりづらいという現実がある。民間もそうですが公的部門はもっとで、衆議院議員の女性の割合は70年以上10%という数字。これが、ジェンダーギャップ指数が低い理由です。 申さん:ジェンダーギャップ指数に関しては、税金をかけずに上げられるポイントもたくさんあるとは思うんです。例えば今論点とされていることでいえば、夫婦別姓や配偶者控除を改正すれば、順位だけなら今よりも上げられるとは思うのですが、キャシーさんのおっしゃるように構造的な問題があって、少しずつ変化したとしてもドラスティックには進まないように感じることもあります。女性ひとりひとりが“自分らしい選択”を繰り返し、積み重ねていくことで自然と社会が変わっていく。自分たちにできることは、それしかないのかなって思っています。 キャシーさん:そうですね。良い兆しと感じるのは、若い男性たちの意識が変わってきたこと。先ほど、とあるスタートアップ企業と話したところ、男性社員のひとりは3カ月、もうひとりは6カ月育児休暇をとったそうです。 申さん:私も今の会社でその空気を感じます。しかも、育児休暇をとらされているのではなく、“子どものため、家族のためにとりたい”と自ら志願する男性が多い。朗報ですよね。 キャシーさん:価値観は確実に変わってきています。こういう形でマイノリティがマジョリティに変わっていけば、日本は変わりますよ。