デンゼル・ワシントン「大谷も好きだけど、ジャッジも好き。NYヤンキースの大ファンだから、悔しくてたまらないよ」【映画『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』来日インタビュー】
『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』は、アカデミー賞作品賞を受賞した『グラディエーター』の24年ぶりとなる続編。前作ではラッセル・クロウが演じたマキシマスが主人公だったが、今回はその息子、ルシアスの物語が展開する。アフリカ北部のヌミディアにローマ軍が侵攻。ヌミディアで暮らしていたルシアスは、激戦の末にローマに奴隷として連れて来られる。その彼に剣闘士=グラディエーターの才能があると目をつける一人の男がいた。マクリヌスという奴隷商人で、ローマ皇帝とも親しい彼は、やがて国の支配さえ目論むようになる。 このマクリヌスを任されたのが、ハリウッドを代表する名優のデンゼル・ワシントンだ。画面に登場するだけで、こちらの視線を釘づけにする圧倒的なオーラは今回も健在。悪の香りも漂わせつつ、ストーリーのキーパーソンであるマクリヌスは、デンゼルだからこそ血肉が通ったことを誰もが実感するだろう。リドリー・スコット監督とは2007年の『アメリカン・ギャングスター』以来の作品となるデンゼル。来日した彼に単独インタビューが実現。『グラディエーターⅡ』での役作りから、プライベートでのこだわり、ワールドシリーズの感想まで、あらゆる質問にことのほか楽しそうに答えてくれた。 ーーリドリー・スコット監督は、あなたにマクリヌス役をオファーする際に、ジャン=レオン・ジェロームというフランスの画家の絵画を送り「こういう感じの男を演じてほしい」と頼んだと言っていました。 「リドリーが絵画を? うーん、ちょっと記憶にないな。でも彼が私に送ったと言ってるなら、そういうことなんだろう。受け取ったかもね(笑)」 ーーではマクリヌス役を引き受けたのは、どんな理由からですか? 「この映画に出演するかどうか。迷った瞬間は一度もなかった。リドリーが私に電話をくれて“きみにしかできない役だ”と言ってくれたからね。脚本が手元に送られてきたのが先か、リドリーの電話が先か今となっては思い出せないが、それだけすんなり決まったということだ」 ーーマクリヌス役にどのようにアプローチしたのですか? 「マクリヌスは1作目に登場しなかったキャラクターで、かと言って古代ローマの歴史で参考になる部分はないので、とにかく脚本に頼るのみだった。1ページ目から集中し、そこから役を掘り下げていく。ただそれだけだよ」 ーーマクリヌスには悪役の側面があります。リドリーとの前回の映画『アメリカン・ギャングスター』や、アカデミー賞を受賞した『トレーニング デイ』と同じように、悪役を人間的にみせるあなたの技術が生きています。 「特に演技の秘策があるわけではない。映画を観る人に“こう感じてほしい”という意識で演じるわけではないんだ。脚本から得られたヒントに従い、そこに俳優としての表現を加えたものを、監督が撮影する。特にこうした大作では、編集が大きな役割を占めることを伝えたいね。私の演技が何に対して行われているか。たとえばマクリヌスがほくそ笑んでいても、私がまったく違うものを見て反応したカットが使われているかもしれない。そうやって役のイメージを形成するのも映画のひとつの手段なんだよ」 ーーそうしたことが起こるのも、監督があなたを信頼しているからでしょう。 「私の長年の経験と、以前のコラボレーションによって、リドリーは私に何の心配もせず自由に演じさせてくれた気がする。もちろん私もベストを尽くすことで、この映画が独自のものになったと感じるよ。じつは本作はスケジュールが特殊だった。撮影が始まって2~3ヶ月後、俳優組合のストライキで中断してしまったんだ。そこから半年以上の空白期間を経て、終盤のシーンを4週間くらいで撮った。こうした変則の状況でも、リドリーは自分のアイデアに自信があったようで、私たち俳優をしっかり演出していたよ」 ーー『アメリカン・ギャングスター』の時、あなたはリドリーから監督としての仕事を学んだと言っていました。 「あの作品は、私の監督2作目『グレート・ディベーター 栄光の教室』と時期が重なっていたので、そんな理由で彼の演出法を観察していたんじゃないかな。今回はシンプルに俳優として、共演者に視線を送っていた」 ーー共演者のポール・メスカルは、あなたと一緒にカメラの前に立つことを心から光栄に感じていると語っていました。そのポールとあなたが闘うシーンは、黒澤明の時代劇のような様式美でしたね。 「そうだったかな? 私はあくまでも演じた男の中に存在するので、客観的にシーンを判断することはできない。“これはクロサワっぽい”というのは監督の意識の表れかもね」 ーー黒澤明といえば、あなたの次回作は黒澤の『天国と地獄』のハリウッドリメイクです。 「『天国と地獄』は誰が監督するのか決まっていない段階で、私のところにオファーが来た。脚本を受け取った時、心から気に入って、どんな作品になるべきか思い浮かべることができた。その作品にふさわしく、なおかつ一緒に仕事をしたい監督を私が提案した。それがスパイク・リーだよ」 ーー前作がアカデミー賞作品賞に輝き、今回の『グラディエーターⅡ』も賞に絡むのでは……という予想も出ていますが、期待を高めていますか? 「今年は僕の息子たちの作品も有力なので、アカデミー賞に向けた賞レースが楽しみだ。“家族びいき”みたいで罪悪感もあるけど(笑)。次男のマルコムが監督し、長男のジョン・デヴィッドが主演した映画(『The Piano Lesson』)と、リドリーと私の映画が共に高い評価を受けている。こんなに賞レースが面白い年はないね」 ーーあなた自身も助演男優賞の有力候補です。『グローリー』、『トレーニング デイ』ですでに2つのオスカーを持っていますが、3つ目も欲しいですか? 「母から教えられたのは“賞(award)は人間が与えるもの。神様からもらえるのが報酬(reward)”ということ。私はこの仕事をはじめて48年になるが、賞にどんな意味があるのかを学んできた。誰が賞を欲しがり、誰がどんな人に賞を与えたいのかを知ることは不可能なんだ。もちろん自分が賞の行方を決めることもできない。だから私は脚本を手に取り、そこに最善を尽くすことに人生を懸けてきた。でも、でも、でも……もしアカデミー賞をもらえる秘密があったら知りたいのが本音だよ(笑)」 ーー『グラディエーターⅡ』ではコロセウムで大観衆が熱狂するシーンも多いですが、日本では先日までメジャーリーグのワールドシリーズが大きな話題になっていて、その光景と重なったりします。 「実は私はNYヤンキースの大ファン。だから今、悔しくてたまらない。“どうした、ヤンキース!”って感じだ。コロセウムのグラディエーターに例えるなら、ヤンキースの選手たちは自分たちに弓矢や剣を向けたようなもの。メインイベントで大敗北を喫し、これから苦しみを味わい続ける。幸運なのは来年に期待できること。グラディエーターは負けたら次がないからね(笑)。私は大谷も好きだけど、ジャッジも好き。あぁ、もうこれ以上、話すのは止めておく」 ーーでは話を変えて、あなたはこうした取材などプライベートではつねに黒のファッションですね。 「そう。黒しか着ない。(服を上から指して)黒、黒、シューズは黒と白。(アンダーウェアのカルヴァン・クラインのロゴを見せ)下着も黒。以上! たまには他の色も着た方がいいかな? ブルーと黒の組み合わせとかは悪くないかもね」 ーーちなみにクルマは運転しますか? 「もちろん。2台所有している。1台はBMWアルピナのB7。加速が心地いい。もう1台は家族用のレンジローバー。この2台で十分だ。とにかく今はムダをなくしてシンプルに生活することを心がけている。そこから快適さが生まれる」 ーー最後に、若い俳優の目標にもなっているあなたが、今後どのような方向に進んでいくのか聞かせてください。 「この業界で最高の才能を持った人たちと、最高の仕事を続けていきたい。それがカメラの前(俳優)でも後ろ(監督)でも、その時のベストを尽くすこと。あとどれくらい仕事を続けられるかはわからないが、今日、明日に引退は決意しないだろう。そしてこの業界には若く才能に溢れた俳優も多いから、未来は明るいと思いたい。私の知識と経験を分かち合うことで、彼らの将来の成功の助けになることを願っているよ」 『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』公開中 原案・脚本/デヴィッド・スカルパ 製作・監督/リドリー・スコット 出演/ポール・メスカル、デンゼル・ワシントン、ペドロ・パスカル、コニー・ニールセン 配給/東和ピクチャーズ 2024年/アメリカ/上映時間148分
取材・文=斉藤博昭