バルサのカンテラ加入・西山芯太を育てたFC PORTAの育成哲学。学校で教えられない「楽しさ」の本質と世界基準
バルサ出身者に多い「ダム」「ブレインフットボール」とは
――西山芯太くんは8歳の時に家族の仕事の都合でスペインに移住されました。現地に渡ってから所属していた「エストレージャ・ダム」は、スペインではどういう立ち位置のクラブなのですか? 羽毛:バルセロナのビールメーカー「エストレージャ・ダム」が親会社となっていて、国内屈指の育成組織です。レアル・マドリードやバルセロナ、エスパニョールの下部組織や、トップチームにも選手を輩出しています。カタルーニャ地域では、「ダムで認められないとうまくいかない」とさえ思われる、登竜門のようなクラブです。芯太はスペインに引っ越してから、さまざまなクラブに練習参加する中で、ダムからもスカウトの声がかかったと聞いています。 ――また、スペインで西山くんが通っていた「ブレインフットボール」というフットボールスクールは、ポルタもつながりがあるそうですが、どんなものなのですか? 羽毛:バルセロナ地域でやっていることもあって、うまい子たちが集まっているスクールです。エリートクラスには、芯太のようにダムの子もいれば、バルサの選手やエスパニョールなど、カタルーニャ地域の強豪クラブのうまい子たちが集まっています。選手の育成だけでなく、世界中から選手の発掘をすることもブレインフットボールの武器だと思います。 芯太がスペインでブレインフットボールに通い始めた後に、一度ポルタの選手たちも武者修行に行かせていただいたのですが、代表のニル(・コンゴスト)と、「子どもたちのために何か一緒にやれたらいいですね」と話をさせていただいたんです。それで、彼らが日本に来たときにポルタの選手たちを見てくれることになりました。指導方針としては、ポゼッションやゲーム形式など、試合を想定してデザインされたものでした。
「ラ・リーガクラブの下部組織に入れる」留学斡旋ビジネスの闇
――近年は「ラ・リーガクラブの下部組織に入れるかも?」を売り文句にした留学斡旋ビジネスが増えていると聞きますが、この現状について、羽毛監督はどのように感じていますか? 羽毛:日本は島国という国柄もあって、現地の正しい情報がなかなか入ってこないので、目に入ってくる情報を鵜呑みにしてしまう傾向があると思います。そういう謳い文句で子どもたちを集めようとするビジネスは多くありますが、基本的にはFIFAのルール(*)があるので、さまざまな条件がそろわないと、ラ・リーガの下部組織に入ることは難しいことは知っておいてほしいです。「スペインで行われている特定の大会に出られる」という謳い文句なら実現できますが、できないことをできるように見せているのは、選手の未来を潰しているようにしか思えません。そういうビジネスが横行しすぎている気がしますし、親御さんは慎重に情報を見極めてほしいですね。 (*)編集部注:FIFAが18歳未満の国際移籍を禁止しているため、日本在住の子どもはラ・リーガのクラブの下部組織に入れない。 ――現地では、そういう情報はどんなふうに受け止められているんでしょうか? 羽毛:現地のサッカーに精通したスペイン人にそういうビジネスが可能なのか聞くと、「それはない」とはっきり言われます。例えば、「バルサのカンテラと対戦できる」と謳っていても、実際にはバルサのスクール選抜だったりするんですよ。でも、行く人たちはそれを知らないことも多いです。「海外でサッカー留学できるよ」と言っても、クラブに所属するのにはFIFAのルールが障壁になります。「特例で行ける」と抜け道を探っても、誰にでも特例が適用されるわけではないですから、注意してほしいですね。 イメージとしては、スクールやアカデミーは選手選考こそあるかもしれませんが、基本的には誰でも入れます。ただカンテラは選ばれた選手しか入れない狭き門なんです。 <了>
[PROFILE] 羽毛勇斗(はけ・ゆうと) 1994年12月24日生まれ、神奈川県出身。FC PORTA監督。横浜FCジュニアユース、横浜FCユースを経て、東海大学サッカー部を卒業。現役時代のポジションはMFで、U-16日本代表歴を持つ。大学卒業時に現役を引退し、2017年に指導者のキャリアをスタート。2019年に創設されたFC PORTAの監督として、日本トップクラスで活躍できる選手の育成に携わり、多くの選手をJリーグの下部組織などに送り出している。
インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]