どの「M」が一番速い? Apple Mプロセッサーを今一度整理してみよう(前編)
ARM側の性能が十分高くなったところで、Appleは全製品をARM系に置き換えるべく、「Apple M」を開発した。これは、過去にCPUアーキテクチャの大胆な変更を2回(68k系→PowerPC、PowerPC →Intel系)も乗り越えてきたAppleならでは、という判断だったし、macOSとベースを同じくするiOSがARM向けに10年以上最適化の実績を積み上げ続けてきた、という点も大きいだろう(Apple Silicon自体も10年積み重ねてきた)。Apple M搭載後のMacがIntel Mac時代以上の性能を叩き出せているのも、こうした背景にあるわけだ。 ところで、実はこの「コア数を変えることで上位モデルを作る」という発想は、実は「A」シリーズですでに行われていた。A5~A12世代には、画面が広くサイズが大きいため、放熱にも余裕があるiPad向けに、CPUやGPUのコア数を増やし、末尾に「X」や「Z」の文字が追加されたプロセッサが製造されていた(A5X~A12XとA12Z)。A14世代からはこれをMac向けにも適用すべく、メモリ帯域などを強化して設計したのが「M」系だと考えるのが妥当ではないだろうか(超細かいことを言えば、A12ZはARM移行用にデベロッパー向けに貸与された「Developer Transition Kit」に搭載されていたので、これが初のMac向けARMとも言えるのだが)。 真新しい製品のように見えて、実は先にほかの製品で予行演習してあるあたり、筆者などは、実にAppleらしい手堅い戦略だなあ、と思う次第である。 ■PC向けの嚆矢となった「M1」 さて、「M」系最初の製品である「M1」は2020年11月に登場し、MacBook Air、MacBook Pro(13インチ)、Mac miniに搭載された。基本となるアーキテクチャはiPhone 12に搭載された「Apple A14 Bionic」と共通だが、M1では高性能コアとGPUコアを増やし、クロック周波数や搭載するメモリも強化されている(このほか、Thunderboltコントローラーなども搭載されている)。M1は当初はMac用に開発されたプロセッサではあるが、のちにiPad ProやiPad Airにも採用されている(余談だが、A14はiPhoneより先にiPad Airに搭載されて発表されたので、iPad Airは同じコアベースのSoCを2回積んだということになる)。 標準では高性能・高効率の両コアが4つずつの8コア編成だが、一部下位モデルでは高性能コアが1つ無効化され、高性能3+高効率4の7コア編成になったチップが搭載されている。ちなみにこうした、一部のコアを無効化して製品のヒエラルキーを作る方法は、GPUのコア数でも行われている。 ところでA14とM1を比較した場合、最大消費電力はA14が4.8W、M1が13.8Wとされている。コア数を比較すると、A14は高性能コア2つ・高効率コア4つ、GPUコア4つの構成だが、M1は高性能コア4つ・高効率コア4つ、GPUコア7~8つとなっており、高性能コア2つとGPUコア4つで9W消費が増えている(メモリ等も増えているので、単純には言えないが)。スマートフォンで10W台の消費電力や発熱を許容するのはかなり難しいが、サイズが大きなMacやiPadならこのくらいはカバーできるわけだ。 M1の登場から1年後の2021年10月に、MacBook Pro向けに上位モデル「M1 Pro」が登場した。これはM1よりも高性能コアとGPUのコア数をほぼ倍増させたモデルで、最大メモリ搭載量やメモリの帯域幅も強化されている。一方で高効率コアの数は4から2へと減らされているため、あくまでパフォーマンス重視といった設計だ。 また、M1 Proと同時に発表された「M1 Max」は、CPUコア数はM1 Proと同じものの、GPUのコア数が大幅に強化されたモデルで、メモリ帯域幅や搭載量もM1 Proに比べてさらに強化されている。近年はグラフィック関連など、GPUに処理をさせるソフトウェアも増えているため、そういった用途に特化していると言えるだろう。 そして2022年3月には最上位モデルとして「M1 Ultra」が発表された。これはM1 Maxを内部で2つ繋げたもので、いわばワンチップデュアルSoCとでもいうべきもの。消費電力などは度外視、とにかくパワーを重視する、ハイエンド向けの怪物級SoCだ。 高性能コア 高効率コア GPUコア Neural Engine メモリ(GB) メモリ帯域 トランジスタ数 M1(モバイル) 3~4 4 7~8 32 8~16 65.28 160億 M1 Pro(ミドル) 6~8 2 14~16 32 16~32 200 337億 M1 Max(プロフェッショナル) 8 2 24~32 32 32~64 400 570億 M1 Ultra(ハイエンド) 16 4 48~64 64 64~128 800 1,140億 前編では、「M」シリーズ登場までの流れをおさらいしてきた。後編では「M4」までの性能をチェックしていき、結局、どのプロセッサーが一番早いの?という疑問にお答えしよう。
海老原昭