どの「M」が一番速い? Apple Mプロセッサーを今一度整理してみよう(前編)
さらに細かいことをいうと、AirPodsシリーズに搭載されているオーディオ処理用の「Apple H」シリーズや無線処理用の「Apple W」シリーズ、UWB処理用の「Apple U」シリーズ、Touch ID処理用の「Apple T」シリーズ、Apple Vision Proに搭載されている低遅延A/V処理用の「Apple R」シリーズなどのチップもあるが、これらはA/M/Sシリーズとは性格が異なるので、本稿では触れないでおく。 ■具体的に「M」は何が違うのか? Apple Silicon(というか最近のCPUはほぼどれも、だが)には「高性能コア」と「高効率コア」という2種類のコアがあり、性能重視のときは高性能コアを、それ以外の軽いタスクでは高効率コアを、というように、役割に合わせて使用するコアを変更することで、省電力と高性能を両立している。ちなみにAppleによると、高効率コアは、同じ性能であれば高性能コアの10分の1程度の消費電力で動作するとのことだ。 で、結論から言ってしまうと、「S」「A」「M」の間の大きな違いというのは、ざっくり言えばこのコア数の違いになる。コア自体の設計が共通している場合、シリーズの違いによるコアの性能差はほとんどない(クロック周波数とか、メモリ帯域の違いはさておき)。 基本となる「A」はスマートフォンからタブレット、スマートTVなどにも搭載され、対象となるサービスやアプリの幅も広いため、省電力性能を重視しつつ、汎用性中心のバランスとなっている。これに対してスマートウォッチ向けの「S」は、パフォーマンスは必要ないので高性能コアを取り除き、画面も小さいので、GPUも最低限でいい。逆に「M」はハイパフォーマンス向けなので、省電力性能を犠牲にしてでも、高性能コアとGPUコアを増やしていく、という発想で設計されている。
スマートフォン向けのSoCを、いくらコアを増やしたところでパソコンに使えるものか?という疑問もあるだろう。MacがIntel CPUを搭載していた時代は、「ARM系は省電力性に優れるがパフォーマンスではIntel系に劣る」という認識が広く浸透していたし、事実でもあった。しかしARMの世代がどんどん進むにつれて、性能差は縮まってきていた。さらに「ARM系」とは言ったが、実際にはライセンスこそ取得しているものの、コアの設計はApple自身がかなりチューニングして、シングルスレッド重視にカスタマイズされている。こうした積み重ねにより、iPhone 15 Proに搭載されていたApple A17 Proはシングルコアの性能で、2022年に発表されたIntel Core i7-12700を上回る性能を叩き出せる。2年前のデスクトップ向けのメインストリームやや上くらいのCPUとスマートフォンのSoCが、同等クラスの性能を持つわけだ。