ピーター・マクミランさん「謎とき百人一首」刊行 百首それぞれの謎を解く
アイルランド出身の翻訳家、ピーター・J・マクミランさんが『謎とき百人一首 和歌から見える日本文化のふしぎ』(新潮選書)を刊行した。なぜ主語を明記しなかったのか、なぜ男が女のふりをして詠んだのかなど、謎を丁寧に解き明かした、入門書にも最適の一冊だ。 【図解】百人一首は時代ごとに編まれ、現代でも親しまれている
本書は百人一首のそれぞれの歌について、詠んだ人物の説明や時代背景、英訳を併記。謎を設定し、解き明かす構成をとる。例えば主語を明記しないのは、人も自然と一体化しているから、男性が女性のふりをして詠んだのは、歌(うた)合(あわせ)という催しの中でフィクションとして詠んだから、といった具合に答えを導き出す。浮かび上がってくるのは日本文化の持つ豊(ほう)穣(じょう)な世界だ。
「私の役目は、難しい古典を一般の読者に分かりやすく、楽しく伝えることだと思っています」
恋を詠んだ歌が多く収められているのも、百人一首の特徴だ。中でも曾禰(そねの)好忠(よしただ)の歌がお気に入りだという。
<由良の門(と)を渡る舟人梶を絶え行方も知らぬ恋の道かな>
相手に振り回され、思い通りにならない恋の道を櫂(かい)をなくした船頭を詠むことで表現している。試練としての恋を乗り越えて人は成長する。
「人は人生の半分くらいは恋を考えているんじゃないでしょうか。恋愛というものはどちらかというと、アンハッピーなものかもしれないですね」
百人一首を翻訳したきっかけは、20年ほど前に帰国するか日本にとどまるか悩んでいた際に、知人から勧められたことだった。「自分を見つめるために訳しました」。翻訳は日米の翻訳賞を受賞した。
本書で百人一首の英訳は3回目になる。柿本人麻呂の<あしびきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝ん>の英訳は、単語をひとつずつ縦に並べ山鳥の尾の長さを表現した。「long」や「alone」などオに近い母音を持つ単語を多く選ぶことで、声に出すと夜の長さが耳から伝わってくる。