「何もしない休暇」が旅行の新トレンドへ、ホスピタリティ企業も対応を加速
ラグジュアリー体験を重視するオールインクルーシブホテルの増加
休息やリラックスを主目的とする旅行ニーズの高まりを受けて、そのニーズと親和性の高いオールインクルーシブホテルの動きが活発になっている。 マリオットはこの数年で30以上のオールインクルーシブホテルを誕生させた。注目すべきは、マリオット系列の最高級ブランドであるリッツカールトンが、ドミニカ共和国にオールインクルーシブスタイルのホテルをオープン予定ということだ。 これまでのオールインクルーシブホテルは、どちらかというとコストを抑えた休暇ニーズに対応したものだった。質より量の食事と飲み放題のドリンクで、出歩くのが難しい子連れの家族やとにかく飲みたい若者グループなどを多く惹きつけてきた。 しかし今、多くのホテルチェーンがラグジュアリー感を重視したオールインクルーシブスタイルへ大きく舵を切っている。マリオットやヒルトンは、系列内の高級ブランドで新たにオールインクルーシブを展開し、ハイエンド客を取り込もうとしている。 プライベートビーチへのアクセスやバトラーサービス、スパやマッサージなどウェルネス体験の充実など、ラグジュアリー感を味わいながら充実した休息時間をエンジョイできるオールインクルーシブスタイルが急拡大しているのだ。 この傾向はビーチリゾートだけではない。カナダやニュージーランドの大自然の中に建つロッジでも、高級オールインクルーシブタイプの施設が増えてきている。
「何もしない」環境作りにコストを掛ける旅行者
今回「何もしない休暇」について調べて興味深かったのは、旅行者側が「何もしない=安上り」とは考えていないことだ。普通に考えたら、観光地を巡ったり食べ歩きをしたり、体験ツアーに参加したり、とアクティブに動き回る旅行の方が、掛かる費用に納得感がありそうだ。 しかしWall Street Journalの取材からは、何もしないことによる休息やリラックスを得るためには、費用を惜しまないという旅行者の傾向が見えてくる。例えばベンチャーキャピタルに勤める40代の女性は、カンクンの大人専用オールインクルーシブホテルに5日間滞在するのに3,400ドル支出した。彼女にとってこれは、5日間何も決めずにただ過ごす対価として満足のいくものだったという。 同じく20代の法学生の女性は、1週間ほどビーチで何もしない休暇を過ごすための環境として、オールインクルーシブホテルを選んだ。これは彼女にとって初めての「リラックス」を目的にした旅行で、世間から離れて何も考えずに過ごすためには、割高でもオールインクルーシブスタイルが必要だと思ったという。 前述のヒルトンのレポートからも、質の良い睡眠を得るためには、ホテルのグレードを上げて良いマットレスの施設を選ぶという旅行客の傾向が見られる。上質な休息のためならば、コストを惜しまないということだろう。 旅行といえばびっしり詰まったスケジュールや慌ただしい観光ツアー、といった概念は既に過去のものになりつつある。上質な休息やリラックスを最優先に求める「何もしない休暇」トレンドは、旅行業界や観光地の在り方を大きく変える潮流となりそうだ。
文:平島聡子/ 編集:岡徳之(Livit)