「生きているのがつらい大人」は知らないと絶対に損をする「ある哲学者の教え」
現代社会は、とにかく生きづらい。そして運命は残酷だ。生きていくということは、なんて苦しいのだろう。 【写真】知らないと絶対に損…「生きているのがツライ」人を叱咤激励する哲学者の教え 「苦しみに満ちた人生を、いかに生きるべきか」ーーこの問題に真剣に取り組んだのが、19世紀の哲学者・ショーペンハウアー。 哲学者の梅田孝太氏が、「人生の悩みに効く哲学」をわかりやすく解説します。 ※本記事は梅田孝太『ショーペンハウアー』(講談社現代新書、2022年)から抜粋・編集したものです。
生きる苦しみからいかに解放されるか
今、ショーペンハウアーを読む意義の一つは、人生の勝負からいったん離れて、人生とはそもそも何なのかを客観的に考えることができるような、哲学的な思考空間を頭の中にしつらえることができるということにある。 これは、とりわけ生きづらさに拍車がかかった現代社会に生きる者にとって一種の救いになるような、哲学書を読むことの重要な意義の一つだといえる。 ただし、こうした思考空間の確保という意義は、ほとんどいかなる西洋哲学にも見出すことのできるものだといえるだろう。 だが、ショーペンハウアー哲学の思考空間には、他に類を見ない傑出した特長がある。ショーペンハウアー哲学は、西洋の伝統に根ざしながらも、その中心思想に西洋思想史上初めて古代インド哲学や仏教思想を取り入れた哲学であり、いまや世界中で読者を獲得し、いわば世界哲学としての地位を得た稀有な哲学なのである。 その真骨頂が「意志の否定」であり、ショーペンハウアーが思索の果てに見出したのは、生きる苦しみから解放される「解脱(げだつ)」の境地だった。これがショーペンハウアー哲学の比肩するもののない特色であり、色あせることのない魅力である。 本書はショーペンハウアー哲学の入門書である。とりわけ、読者が生の本質についてショーペンハウアーと共に考えていけるような本にすることを目指して、その哲学のエッセンスを抽出することにした。
「求道の哲学」と「処世の哲学」
このような本を書こうと思ったのは、欲望を原動力としてきた現代社会が、そしてそれを動かしている人々の心が、いよいよ限界に達しようとしていると思えてならないからだ。 資本主義の仕組みは、どこまでも発展し続けることを前提としている。すなわち、絶えず利潤を求め、次々に新しいものを開発し続け、より豊かになることを目指して「経済を回す」のでなければ、資本主義社会は崩壊してしまう。 しかし、この社会で生きる者たちの多くは、幼い頃から出逢ってきた周囲の人々が次々に視界から消え、ドロップアウトしていく死屍累々の現状を目の当たりにし、欲望に駆り立てられ続けて生きることに、勝負し続けることに倦み疲れ、失望し、限界を感じているのではないだろうか。 わたしたちは今こそ、ショーペンハウアー哲学を手がかりに、生の本質を見つめる必要があるのではないだろうか。 本書は、ショーペンハウアーが示した生きる苦しみとの向き合い方を、2通りの思想として示すものである。その1つが、主著『意志と表象としての世界』で提示された、徹底的な欲望の否定である。 ショーペンハウアーは、生きる苦しみと向き合い、苦しみの源泉にほかならない欲望を否定し、エゴを超えていこうとする。彼が示したのは、厳しい否定による悟りの境地──「意志の否定」を終着点とする、〈求道の哲学〉である。 ショーペンハウアーの言葉は厳しいばかりではない。いわば飴と鞭のように、読者を叱咤激励しながらも、その心に寄り添って理解を示し、その苦しみをユーモアを交えて代弁し、人生の指針を考えるためのヒントを与えてくれる。だからこそ、人生の悩みに効く思想として、現代に至るまで読み継がれてきたのだといえる。 ショーペンハウアー哲学のそうした側面を本書では〈処世の哲学〉として特徴づける。彼の晩年の書『余録と補遺』は、主著とはかなり趣が異なっている。もちろん、主著の「補遺」なのだから、思想の核心が「意志の否定」にあるという点は変わっていない。だが、そこには主著には収められなかったメッセージが書かれている。 主著が求道を勧める書であるのに対して『余録と補遺』は、「意志の否定」の重要性を理解できているために、欲望にまみれたこの世にうまく馴染めないけれども、それでも生きていかなければならない人のための処世の知恵として書かれている。 そこでショーペンハウアーが示してくれるのは、心穏やかに生きるためになるべく欲望を「あきらめる」ことで苦悩を少なくしようとする思考法であり、どうにもならないことをどうにもならないと「あきらかにする」、処世の哲学である。 さらに連載記事<ほとんどの人が勘違いしている、「幸福な人生」と「不幸な人生」を分ける「シンプルな答え」>では、欲望にまみれた世界を生きていくための「苦悩に打ち勝つ哲学」をわかりやすく解説しています。ぜひご覧ください。
梅田 孝太