<頂きへ!・センバツ2023大垣日大>/5 空腹も心も満たす 寮の食事、愛情込め /岐阜
今回のセンバツ出場で甲子園出場回数が春夏通算で2桁の大台に乗る大垣日大には県内外から選手が集まる。現在の野球部員計30人は全員が神戸町の「桜神(おうしん)寮」で寝食を共にし、同じ敷地内のグラウンドと雨天練習場で野球に打ち込んでいる。 部員たちは集団生活を送っているからこそ、チームワークが一層深まると感じつつ、規律が乱れれば練習にも影響すると自覚している。毎朝同じ時間帯に起きて掃除し、ユニホームなどは各自で洗濯する。 食べ盛りの部員たちの空腹と心を満たしているのが、計8人の調理員だ。専属で最もベテランの清水忍さん(59)=神戸町=は大垣日大の前身の「大垣高校」OB。約8年間、平日は朝と夜、授業のない日は昼も担い、部員たちにご飯とおかずを提供している。 部員たちは朝から1合食べる。清水さんは平日午前5時に寮に来て、コメ3・5升を炊く。いったん帰宅して、午後4時ごろに再び厨房(ちゅうぼう)に入り、7~8升のコメを炊く。 今月10日夜の献立は「豚肉のネギしょうゆ炒め」や「春菊ののりあえ」など。おかずが出来上がると、寮の中は食欲を誘う香りに包まれた。 部員たちに人気のあるメニューは鳥の唐揚げ。ポン酢やマヨネーズをたっぷりかけて、ご飯とともにたいらげる部員たちを見ると、清水さんもうれしくなるという。試合当日は緊張しながら朝食を取る選手たちを見守り、「いいプレーを見せてくれよ」と送り出して、自らも球場に向かう。昨秋の県大会は全試合、球場でエールを送った。「選手と一心同体と思っているので、勝てば本当にうれしい」と目を細める。 清水さんがこだわっているのは、「食堂を選手たちが一番リラックスできる場にすること」。寮生活に慣れていない1年生には特に目を配り、しっかり食べられていない時は優しく声を掛ける。「学校でもグラウンドでも気を張っているかもしれない。せめて食堂くらい、おいしい物を食べて、ゆっくりしてほしい」 選手たちは体力と筋力を付けるために昨秋から体重を最低3キロ増やすことを目標に掲げ、食堂の前にある体重計で日々測定している。 入学時から体重が15キロ増えて82キロになった外野手の岩本千空(ちひろ)(2年)は「母や父の料理と同じくらい全てのメニューがおいしい。清水さんたちのおかげでこれだけ大きくなれた」と感謝し、主将の日比野翔太(2年)は「部員一人一人の名前を覚えてくれ、あいさつすると、こちらも元気をもらえる」と語る。 清水さんたちが作った愛情たっぷりの食事でよりたくましくなった選手たちは、センバツの「頂き」に立つことが一番の恩返しになると信じ、汗を流す。大会は3月18日に開幕する。=おわり(この連載は黒詰拓也が担当しました)