腹痛を何度も繰り返すなら「大腸憩室炎」を疑え…命に関わるケースも
突然、もだえるような激しい腹痛に襲われると虫垂炎=盲腸を疑う人も少なくないだろう。ただ、いつもと違う腹痛が長引いたり、何度も繰り返すのであれば「大腸憩室炎」の可能性も高い。次第に良くなるだろうと事態を甘く見ていると、重大な合併症を招く危険がある。兵庫医科大学病院消化器内科主任教授の新﨑信一郎氏に聞いた。 胸のつかえが治まらない…逆流性食道炎だと思っていた、食道の「カビ」だった! 「大腸憩室」とは、大腸壁の一部が外側に向かって風船のように袋状に突出してしまった状態を指す。 「食物繊維が不足した食事などが原因で便秘気味になると、便を押し出そうと腸管の内圧が高まって、腸壁の一部が外へ押し出されてしまうのです」 大腸憩室は日本人の約4人に1人が保有しているといわれ、決して珍しいものではない。 大腸内視鏡検査で偶然見つかるケースが多く、無症状なことがほとんどだ。 ただ、憩室のくぼみに便がたまった状態が続くと内部で細菌が繁殖し、炎症が生じて、腹痛、発熱、下痢、吐き気の症状を引き起こす。 この状態が「大腸憩室炎」だ。 「憩室炎による腹痛の強さは、鈍痛から、もだえるほどの激痛まで患者さんによってさまざまです。憩室炎は通常40代以降で発症し、年齢が上がるにつれ罹患率が高くなりますが、近年は食生活の欧米化によって、若年層の20~30代で診断される方が増えています」 ■虫垂炎と診断されて… ある20代後半の男性は2年前のある朝、腹部の張りを感じ、下腹部にチクチクとした違和感を覚えた。翌日、自宅で友人らと夕食を取っていると突如、右下腹部に腸を締め付けるような激痛が走る。慌てて受診した近所の内科で虫垂炎と診断され、抗菌薬の服用で痛みは治まった。 ところが昨年冬、外出先で右下腹部の激痛と39度を超える発熱に襲われ、立ち上がることができなくなった。救急搬送された先で、採血と腹部CT検査の結果から大腸憩室炎と診断された。 「大腸憩室は、主に大腸の右下腹部から右上腹部にかけて伸びる『上行結腸』と、左下腹部にある『S状結腸』の2カ所に生じます。しかし、右下腹部には虫垂があるので、近くに憩室炎が起これば問診や触診だけでは区別するのが非常に難しい。患者さんの中には、何度も腹痛を繰り返すうちに、憩室炎が疑われ、採血や画像検査の結果から診断がつくケースも少なくありません」 基礎疾患などで免疫力が低下しやすい高齢者の場合、正確な診断を受けずに放置して重症化すると命に関わる危険がある。重大な合併症があるからだ。 「憩室は腸壁が薄くもろい部分にできるので、炎症の程度によっては腸管穿孔(腸管に穴が開く)を起こして細菌が腹腔内に漏れ出します。それが血液を介して全身に広がり、腹膜炎や敗血症を起こし、最悪のケースでは死に至る恐れがあるので、しっかりと治療を行う必要があります」 腹部の痛みが比較的軽度であれば抗菌薬の服用が基本となる。通常は5日程度で炎症が治まり、次第に痛みは和らぐという。 痛みが強く、広範囲に及んでいるなら、数日間の絶食で腸管を安静にさせる必要がある。1週間程度入院し、点滴で不足した栄養素や水分を補いつつ、抗菌薬を投与する。万が一、腸管穿孔などの重大な合併症が見つかった場合には、外科的手術が必須だ。 とはいえ治療で症状が落ち着いたとしても、新たな憩室をつくったり憩室炎を引き起こすきっかけとなる便秘を解消させなければまた発症する。 「もともと便秘体質でこれまで何度も憩室炎を繰り返しているのであれば、食事に食物繊維の多い野菜や海藻類、豆類などの食材を意識して取り入れたり、水分をしっかりと取ってください。必要があれば、便通を改善させる内服薬の処方も行っているので医師に相談するといいでしょう」 大腸憩室炎は便秘を解消すれば発症を予防できる。一時的な腹痛と過信せず、いつもと違った痛みがあれば医療機関で適切な診断を受けることだ。