日本酒ユーチューバーの事業断念後、「圧倒的な優しさ」にひかれた移住先の魅力発信「都会が全てじゃない」
「心の中で叫んだ。ガッツポーズでした」。福岡県豊前市を拠点に活動するクリエイターの田中勝さん(39)は、「その瞬間」をこう振り返る。 【写真】「豊前(舞鮮)みらいサーモンの海鮮&スティックフライ丼」をPRする田中さん
11月24日、北九州市で開かれた九州各地のJR駅長が推薦する丼飯の人気ナンバーワンを決めるイベント。豊前市の陸上養殖場で生産されるサーモンの刺し身やフライ、地元の野菜などを彩りよく載せた「豊前(舞鮮)みらいサーモンの海鮮&スティックフライ丼」が来場者の投票で準優勝に輝いた。
動画や写真を撮影、編集してインターネットで発信するスキルを買われ、養殖会社の委託でイベント前から丼やサーモンをSNSで紹介。飲食業の経験を生かして味付けをアドバイスし、会場の販売ブースの看板のデザインなども担当した。結果発表後、この丼を地元の道の駅「豊前おこしかけ」の「六花茶屋」で提供する久末食品の久末かおる社長(57)らが喜ぶ姿をカメラに収めながら、自身も達成感を覚えていた。
長崎県出身。日本酒好きが高じて2015年に同県佐世保市で日本酒バーを開業した。その傍ら、「まちゃる」の名で日本酒の魅力や各地の酒蔵を紹介する番組を制作し、動画投稿サイト「ユーチューブ」で配信。登録者数は1万人を超え、日本酒ユーチューバーでは国内トップクラスになった。
この実績を基に「情報発信や人のサポートで事業展開したい」と一念発起。20年に店を手放し、約2年かけて軽乗用車に寝泊まりしながら、九州から関東までの100を超える酒蔵を巡り、自身の番組で紹介した。ただ、期待通りの広告収入は得られず、SNSで注目を集め続ける難しさも痛感し、事業を断念した。
縁あって宮崎県日南市の飲食店などに勤めた後、飲食業の開業をめざして九州の物件を探す中で豊前市の商店街を訪れた。同市の人口は約2万3000人。県内29市の中で最も少ないが、人と人のつながりは深く、人情が息づいていた。住民と触れ合ううち、住まいや仕事の心配までしてくれる「圧倒的な優しさ」にひかれ、「ここなら何をしてもやれそうだ」と決意。今年10月中旬に移り住んだ。