2023年最大の匿流・「ルフィ広域強盗事件」、3年前から追っていたフィリピンのグループを警視庁はどう追いつめたか
---------- 30年を超える記者生活で警察庁・警視庁・大阪府警をはじめ全国の警察に深い人脈を築き、重大事件を追ってきた記者・甲斐竜一朗が明らかにする刑事捜査の最前線。最新著書『刑事捜査の最前線』より一部を連載形式で紹介! ---------- 【続き】「シュガー」渡辺被告のiPhoneロックをいかにして解いたか
「匿流」(※)と闘う
2023年の年明け早々の1月19日、東京都狛江市の民家で凶悪な強盗殺人事件が発生した。住人の90歳女性が両手首を結束バンドで縛られ、頭などを負傷して倒れているのが見つかり、死亡が確認された。司法解剖の結果、全身を殴られたり蹴られたりした痕があった。執拗に暴行を受けたとみられ、腕を開放骨折していた。室内が広範囲に物色されており、警視庁捜査1課は強盗殺人事件として調布署に捜査本部を設置した。 関東では年末年始ごろから茨城、栃木、埼玉、神奈川各県で、数人の男による強盗致傷や窃盗などの荒っぽい強行犯事件が相次いで発生していた。手口などから関連が疑われる「広域強盗事件」は2021年夏以降、窃盗などを含め14都府県で五十数件に上ることが後に警察庁の集計で判明する。 狛江市の事件も当初から関連があるとみられていた。発生から8ヵ月後の2023年9月12日、捜査本部は、「ルフィ」などと名乗り、拘束されていたフィリピンの首都マニラ郊外の入管施設「ビクタン収容所」からスマートフォンで日本の実行犯に犯行を指示したとして、強盗殺人容疑などで渡辺優樹、今村磨人、藤田聖也、小島智信の4被告(それぞれ同年12月までに3~8事件の強盗致死罪などで起訴)を再逮捕する。日本に姿を現すことなくフィリピンから凶悪事件を主導したとみられる渡辺被告ら。刑事たちは、いかにして国境を超えた犯罪組織の中枢に捜査のメスを入れたのか――。 狛江市の事件からさかのぼること約3年前の2019年11月、警視庁捜査2課はフィリピン入国管理局に協力要請してマニラで特殊詐欺の日本人のかけ子36人を一斉に拘束。36人は新型コロナウイルスの影響もあり20年2月から21年7月にかけて日本に強制送還された。捜査2課は、財務省職員などを装いキャッシュカードを盗み取った窃盗(詐欺盗)容疑で全員を逮捕する。この事件の捜査を指揮した元幹部はこう語っていた。 「目指すところは当然、ワタナベですから」 ワタナベとは、渡辺優樹被告のことだ。捜査2課は2019年当時からすでに、送還された36人を配下に置き、フィリピンを拠点とする特殊詐欺グループの首魁として渡辺被告の存在を把握しており、同年7月には特殊詐欺に絡む窃盗容疑で渡辺、今村、小島の3被告の逮捕状を取得している。 ※「匿流」とは…警視庁は、匿名性の高い交流サイト(SNS)などでつながり、特殊詐欺や強盗を働くため「闇バイト」の募集などを行う犯罪グループを「匿名・流動型犯罪グループ(通称・匿流)」と規定、実態解明や摘発に力を入れる。