2023年最大の匿流・「ルフィ広域強盗事件」、3年前から追っていたフィリピンのグループを警視庁はどう追いつめたか
グループは組織全体で100人を優に超える
捜査2課が、渡辺被告の詐欺グループについて端緒をつかんだのは2018年秋ごろ。日本国内にいるグループの受け子、出し子を捕まえたのがきっかけだ。供述やスマホの捜査から一人ずつ関係者を割り出す地道な突き上げ捜査を展開。受け子や出し子はインターネット上の闇バイトで募集し、運転免許証などの身分証を送らせ組織から抜け出せなくするような仕組みになっていた。受け子のやり方を教える指示役にたどり着くとともに、身元が判明する応募者も徐々に増えた。フィリピンに渡航していた応募者が多数いたことから、現地にかけ子の拠点があることは早い段階からつかんでいた。 身元が判明していたかけ子数人が帰国したところを羽田で逮捕し、供述からフィリピンで特殊詐欺がグローバル化している実態が徐々に明らかになった。 捜査を通して浮かび上がったのは、首魁としての渡辺被告とその下に10人程度の「かけ子班」リーダーがいくつもぶら下がる組織図だ。各リーダーはそれぞれ十数人のかけ子を使っているとみられた。渡辺被告が詐欺電話をかける「かけ場(ハコ)」に姿を見せることはなく、定期的に開かれる幹部会にだけ現れていたという。 「フィリピンでハコを作るには、ワタナベに話を通さないとできない」。フィリピンのセブ島で特殊詐欺に関与した別のグループのメンバーは、捜査2課の調べにそう供述したとされる。このグループはタイのパタヤに拠点を移した後の2019年3月、タイ警察に不法就労容疑で摘発され、日本に移送されて捜査2課に詐欺容疑で逮捕された。 マニラで拘束された渡辺被告の配下の36人は、二つか三つのかけ子班のメンバーだ。これ以外にもまだ現地や日本に受け子や出し子、闇バイトの実行役を募集するリクルーターがいるため渡辺被告のグループは組織全体で100人を優に超えるとみられた。 グループは4ヵ所ぐらいの拠点を1~2週間単位で転々としていたという。2019年11月時点で捜査2課がつかんでいたアジトは2ヵ月前に把握した場所だった。そこを急襲してもしすでに移動していてもぬけの殻だったら、情報が流れグループがアジトをすべて撤収してしまう恐れがある。確実に一斉拘束するには、直近のアジト情報が絶対条件となる。その情報をもたらしたのは宮城県警だった。同県警はそのころ、県内での特殊詐欺事件でフィリピンから帰国した容疑者を逮捕。この人物は渡辺被告のグループでかけ子をしており、最新のアジト情報を握っていた。 捜査2課は宮城県警を通して得られたこの人物の供述を基に最新の場所を特定できたことからフィリピン入国管理局に情報を提供。管理局がマニラ近郊の廃ホテルにあった拠点に踏み込み、36人を拘束した。この場所に渡辺被告らの姿はなく、捜査2課の元幹部が「彼ら(36人)は氷山の一角でしかない」と語るように、その後もフィリピンから日本への詐欺の電話は続いた。