「リーバイスのTバック、すべて見せます」前編──ベルベルジン・ディレクター、藤原裕「ヴィンテージ百景」
祝・連載50回! 藤原裕がリーバイスのデニムジャケット、「Tバック」を2回に分けて総括する。 【写真を見る】それぞれのディテールをチェック!
Tバックとは一体なんなのか
こんにちは、藤原裕です。なんと今回で連載50回目! 節目ということで、今回はヴィンテージウェア業界でいま最も人気を集めている“Tバック”をあらためて取り上げます。 正式なモデル名はLEVI’S 506XX E。バックヨーク部分と生地の継ぎはぎのステッチラインが交差し、それが偶然「T」に見えたことから、”Tバック”と呼ばれるようになりました。ビッグサイズの個体だけに見られる仕様で、現状「46」インチ以上からTバックになっていることが確認されています。ちなみに私のファーストTバックは25歳のとき。先輩から3万円で譲ってもらいました。当時はサイズがデカすぎて見向きもされなかったGジャンが、20年以上経過した今、これほどの価値に膨れ上がるとは、想像できませんでした。今回はベルベルジンや、私とゆかりのあるTバックオーナーさんたちにお声がけし、集めてきました。10着のTバックを年代別に紹介いたします。総額7000万円(推定)、すべてTバック! 圧巻ですよ! ■LEVI’S 506XX E 胸ポケット部分に赤タブが付く以前に製造された、貴重なモデルです。ちなみに、赤タブが付くのは1937年からと言われているので、それ以前に製造されたものであることがわかります。小ボタンを使っていてもおかしくない年代のものですが、おそらく、小ボタンから通常のボタンに変わった1935年頃のもの。フロント部分のボックスステッチがやや細みの作りになっていることも特徴のひとつです。 ■LEVI’S 213 213は、506の廉価版で、「No.2デニム」として誕生した「2」から始まる品番のモデルです。生地のオンスが薄いのと黒ラッカー製ボタンを使用しているのが特徴です。もともと弾数が少ないのですが、「No.2デニム」自体、1943年で製造が終了しているので、それ以降の個体は存在しません。バックルバックが黒いことから、第2次世界大戦直前の頃のモデルで、41~42年製であると推定できます。リネンパッチがここまできれいに残っている個体はまずありません。 ■LEVI’S 506XX E 1942年製のもので、デザインこそレギュラーの506XXですが、大戦モデルと同じ生地を使っているのが特徴です。冒頭で紹介した赤タブのない個体と同じく、こちらもボックスステッチがやや細めになっています。あとこの年代は、ほぼオレンジステッチで仕上げているのもポイントです。これは自分の私物で、16年前にワンウォッシュの状態で入手して以来、ずっと着続けています。 ■S506XX E WW2 大戦モデルの中でも、開戦直後のモデルです。というのもポケットのフラップがなくなり、フロントボタンが5つから4つ仕様になっているところまでは大戦モデルの特徴を踏襲していますが、ボタンが月桂樹ボタンではなく、リーバイス社製のボタンを使っています。これは(大戦)初期モデルの特徴です。第2次世界大戦が始まり、国から物資簡素化の指令が出てすぐの頃のモデルであると思われます。拙著『LEVI'S® VINTAGE DENIM JAKETS TYPEI/TYPEII/ TYPEIII』(ワールドフォトプレス刊)の表紙を飾ったのは、このGジャンです。 ■S506XX E WW2 同じくS506XX E。基本的にはオールイエローステッチで4つボタン仕様、フラップレスポケットで月桂樹ボタンという、いわゆる”THE大戦モデル”ですね。使用しているディテールパーツなどから、おそらく44年頃のものと思われます。 サイズは「46」とT-Backの中では1番小さいサイズ。みなさんはご存知だと思いますが、大戦モデル自体ここ数年は、Tバックはもちろん、小さめのサイズの個体でも見つけることはかなり難しいです。 PROFILE 藤原裕(ふじはら・ゆたか) ベルベルジン・ディレクター 原宿のヴィンテージショップ「ベルベルジン」顔役。ヴィンテージデニムマイスターとしても認知されている一方、多くのブランドでデニムをプロデュースするなど、現在のデニム人気を担っている。今回は“Tバック祭り”ということもあり気合い十分。写真は、撮影中に「そんなに好きなら背中に『T』のタトゥーを入れたら?」と、ありきたりなガヤを入れた時の様子。これがまんざらでもなかったようで「もう勘弁してくださいよおおお(笑)」と、テンションマックスの豆柴のような反応を見せた。真っ黒い鼻をびっしょりと湿らせて、甘え顔のユタカー。クフンクフフン!
文・オオサワ系 編集と写真・岩田桂視(GQ)