ゲームの本質は「緊張と緩和」 バイオハザードを生み出した三上真司の制作魂
──だとすると、制作している側も不安ではないですか。 一緒につくっているスタッフにそんなこと言われたら厳しい、何を信じればいいんだろうと。だからディレクターは孤独なんです。 ──ゲーム制作の現場は、プログラムを書く人やキャラクターをつくる人、サウンド担当などさまざまいます。どの程度、関与されるんですか。 まず僕はスタッフを信用していますので、最初に理想や方向性を示したら、その人にかなり任せます。ただ、最初に方向性が固まるまではしっかり話しますね。たとえば、2Dのアート担当のスタッフに資料を見せながら絵を描いてもらって、ざっくばらんに話して詰めていく。いろんな資料の絵を見ながら、試しに描いて「こんな感じ?」「ここちょっと違うかな」と、少しずつ絞っていく。そうする中で、その作品の色の度合い、コントラスト、密度なども決まっていく。 それらが決まったら、あとは個々に任せる。スタッフもみなクリエイターですからね。大事なのは「一緒につくろう」ということ。だから、ディレクターの一番大きな仕事は、そのゲームとチームの方向性を示すことだと思います。
──いまの会社、タンゴにはホラーゲーム好きが集まっているんでしょうか。 “類は友を呼ぶ”を避けたかったので、ホラーをつくるようなことは伏せて募集したんです。そうしたら、ホラー好きがほとんど集まらなかった(笑)。でも、いまのスタッフはみなゲームづくりやクオリティに対して執念がある。そこによさがあります。 だから、タンゴになって制作した「サイコブレイク」(2014年)という作品は、グラフィックはものすごく緻密です。それは密度が高く、コントラストを強めに描けるグラフィッカーがとにかくクオリティを重視して制作したから。だから、ゲーム制作って一番重要なのは人なんですよ。
「サイコブレイク」の反省
現在、新作を制作中だが、現場ではあまり前に出ず、「おじいちゃんのように」見守ることを旨としているという。それは「サイコブレイク」を制作中、自分の判断で難易度を高くしすぎてしまった反省も背景にある。 ──「サイコブレイク」は海外の評価は高いですが、国内では厳しい意見もあります。 さっき言ったようにゲームでは「緊張と緩和」が大事なんですが、このゲームでは制作の最終段階で、緊張をグッと高めるような指示をしてしまったんです。それがほんとうに後悔でね……。その判断はちょっと時代からずれていたと思うんです。すでに高い緊張を求めるゲームの時代ではなくなっていたのに、それを求めたことで失敗した。だから、セールス的にはいまひとつ伸びなかった。あのときに、誰か僕を止めてくれていたらと思いますよ。実際、「サイコブレイク2」で難易度をゆるくしたら評判がよくなりましたし。