ゲームの本質は「緊張と緩和」 バイオハザードを生み出した三上真司の制作魂
「バイオ4」で隠していた仕組み
──再び手掛けた「バイオハザード4」では、YouTubeが始まってまもない頃から、ユーザーがプレイ動画をアップするほど世界で人気でした。多くの人がはまったのはなぜでしょう? じつは「バイオ4」では、プレイするユーザーの腕によって難易度を調整するというシステムを取り入れています。もともとゲームを始める際の設定に「アマチュア」「ノーマル」「プロフェッショナル」という難易度の選択がありますが、それではありません。ユーザーには見えない、隠れた仕組みです。
──どんな仕組みですか。 たとえば、ある地点までのプレイで、どれだけ時間がかかったか、敵の攻撃をどれくらい食らったのか。あるいはヘッドショットで何体倒したか。そういうユーザーのプレイを判別する。下手な人には難易度を下げるし、うまくやっている人には難易度を上げる。そういうレベル調整を裏側で10段階でやっている。だから、できない人はやりやすくなるし、できる人はやや難しくなる。 ──「バイオ4」が世界からの評価が高いのは、そういう見えない部分での調整もあるからでしょうか。 ですかね。あのときの開発チームは、僕が細かいことを言わなくても任せておけば、朝起きたらすごいものができている。それくらい優秀でした。当時、僕の第4開発部の中でも腕利きを集めてつくったオールスターチーム。だから、一度やって終わりではなく、繰り返しやりこめるようなゲームをつくれたのだと思います。
ゲームの評価は企画書どころか体験版でも難しい
その後まもなく三上氏はカプコン子会社に移籍したのち、2005年に独立。10年に現在のタンゴゲームワークスを立ち上げると、米国のゲーム開発大手ベセスダソフトワークスの傘下となった。14年にタンゴの制作で「サイコブレイク」を発表すると、翌年スペインでのゲームイベント「ゲームラボ バルセロナ 2015」で「名誉賞(Premio de Honor)」を受賞した。
──開発について、親会社の米国企業とのやりとりは厳しいところもありますか。 プレゼンなんかは日本人の感覚でやろうとすると失敗しますね。直感的という部分が通用しない。全部ロジックに落とし込んで説明しないといけない。だから弁論部の天才みたいなやつがほしいです。ただ、ゲームつくっていて難しいのは、企画書の段階でものすごく考えてシミュレーションし、絵コンテが入った仕様書をつくり、「いける」と思っても、実際ゲームに実装してみると、おもしろくないということがあるんですよ。 ──実際に操作してみないと、そのおもしろさがわからない。 開発をしている現場の人間ですら、そういうもんです。企画を本社に出して、予算、制作期間、セールスの予想などもして、グリーンライツ(青信号)が灯って、プロジェクトのGO!が出る。開発が始まると最初に「ファーストプレイアブル」という段階があります。プレイヤーと敵が出てきて、ちょっと戦えるくらいの仮の状態。「なんとなくこんなゲームかな」というのを理解してもらう段階。その次が「バーティカルスライス」という、体験版に近いような段階に進んでいきます。でも、「ファーストプレイアブル」ですら、大半の人にとって評価するのが難しい。ゲーム業界で15年20年やってきているベテランでも「バーティカルスライスの段階でゲームの骨組みがはっきりしない」ということがある。