【2025年半ば以降は円全面安か】ドル独歩高は今年も変わらず、1ドル160円台定着はもはやメインシナリオ
1ドル160円をつけた2024年だったが、2025年の円相場はどうなるのだろうか。みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏が需給・金利の両面から3つのシナリオを提示した。(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト) 【著者作成グラフ】需給と金利から見た2025年のドル/円相場の見通し。メインシナリオ、穏当なリスクシナリオ、極端なリスクシナリオの3パターンあり。 ■ FRBの利下げ、日銀の利上げは上半期で停止 2025年最初の寄稿ということで、今年の円相場の見通しについて、需給・金利両面からポイントだけ整理、提示しておきたい。 「メインシナリオ」「穏当なリスクシナリオ」「極端なリスクシナリオ」と、それぞれがドル/円相場に対して持つ含意をまとめたものが図表(1)である。断っておくが、表中の論点はすべてを網羅しているわけではなく、最も象徴的な論点を掲げている。 【図表(1)】 端的に言えば、2025年は「日米の金融政策運営に関する現行路線が上半期中に終息する」という事実が要点になろう。具体的には、上半期中にFRB(米連邦準備理事会)の利下げおよび日銀の利上げは停止に至るという想定である。 もちろん、不測の事態(システミックリスクや地政学リスクの台頭など)を背景として、FRBの利下げが想定以上に長引く可能性はある。しかし、裏を返せば不測の事態がなければ、FRBの利下げ路線の持続性は相当疑わしい。
■ 1ドル170円定着シナリオが現実化する条件 後述するように、米国の中立金利水準は現状、過小評価されている可能性があり、「穏当なリスクシナリオ」ないし「極端なリスクシナリオ」として、タカ派色が強まる可能性を警戒する地合いにある。 日銀に関しては「賃金・物価の好循環」という(日銀からすれば)真っ当な理屈で利上げできるのは、中立金利に近いと目される1%が上限ではないかと予想している。 むしろ「穏当なリスクシナリオ」に挙げているように、年央に控える国政選挙に配慮して結局は利上げが見送られ、政策金利が0.25%のままという可能性にも留意したい。 堅調な米国経済の状況を踏まえれば、「極端なリスクシナリオ」として、通貨防衛的に複数回の利上げを強いられる可能性も視野に入れたいところだ。そのような状況になれば、ドル/円相場も160円台後半や170円到達が視野に入っても不思議ではない。 需給に関しては、原油価格が前年比で▲10%以上下落することを前提に、輸入減少を主軸として貿易収支赤字が縮小する展開がメインシナリオとなる。 この点は円安抑止の心強い材料ではあるが、第二次トランプ政権が展開する保護主義政策や精彩を欠く中国経済など、輸出を抑制する材料もそれなりに多い。 しかも、予見される旅行収支黒字の頭打ちを踏まえれば、経常収支全体の仕上がりが大きく2024年と変わるとは考えられない。せいぜいキャッシュフロー(CF)ベースでみれば、均衡からやや黒字といったところだろう。 一方、金融収支上で注目される「家計の円売り」については、月間1兆円規模で持続していた投資信託経由の対外証券投資は鈍化すれども、相応の規模が続くと考えている。 そのほか、金融収支においては直接投資が耳目を引きやすいが、対外フローは旺盛、対内フローは低迷という構図も恐らく簡単には変わらないだろう。結局、日本全体で見れば、「円を売りたい人の方が多い」という現実は2025年も健在である。 この見通しを覆すことがあるとすれば、原油価格が急落したり、昨年9月以降に見られている「家計の円売り」ペースの鈍化が恒常化したりする展開だが、メインシナリオにするほどの合理的な理由は今のところ見出しづらい。