アップル、独自モデム採用なら教訓にすべき「iPhone 4」のアンテナゲート問題
以前からうわさされていた、Appleのワイヤレスモデムに関する取り組みが、いよいよ最終段階に近づいているようだ。2025年春に発表されるとうわさされている新型「iPhone SE」には、初のApple製ワイヤレスモデムが搭載されるだろうと、BloombergのMark Gurman氏が12月はじめに報じている。現在セルラーモデムで業界をけん引しているQualcommのチップにAppleも依存しており、その現状からは注目すべき変化となる。 アップル「iPhone 4」の軌跡--写真で振り返る発表、発売、アンテナゲート Gurman氏によると、Appleはモデムに関する方針を段階的に強化していく予定だという。2025年には、より手頃なモデルのiPhone SE、同じくうわさされている「iPhone 17 Slim」、そしてセルラー接続できるエントリークラスの「iPad」といった製品でこのモデムが採用される見込みだ。 第1世代となるこの独自モデムは、現行のフラッグシップモデル「iPhone 16」シリーズに採用されているQualcommのチップほど「高度」ではなく、ミリ波など5Gの高周波帯にも対応しない、とGurman氏は書いている。ミリ波は、米国ではVerizonとAT&Tが超高速接続のために主要な大都市、空港、スタジアムなどで展開している周波数帯だ。 Appleのモデムでは、キャリアアグリゲーションが4つの周波数帯に制限されるとも言われており、これはQualcommの最新チップより見劣りする。キャリアアグリゲーションとは、複数の無線周波数帯域を組み合わせてデータ速度を引き上げる技術である。Gurman氏によると、Appleの最初のモデムは、Qualcommの最新チップほど高速ではない可能性があるものの、ラボでのテストでは「ダウンロード速度が最大で毎秒4ギガビットに達する」という。 実際の性能は、制御下にあるラボ環境でのテストとはかなり違うものだ。とはいえ、その帯域幅の何分の1かでも安定して実現できるのであれば、一般的なユーザーの日常的な使い方、つまりストリーミング、メッセージの送受信、ビデオ通話、SNSへの投稿などには十分だろう。 2026年、2027年には、Appleから第1世代よりもハイエンドのモデムが登場し、Qualcommの今後のチップを凌ぐ可能性があると言われている。だが、多くはAppleが初手から見事な結果を出せるかどうかにかかっている。接続の不具合がいかにまずい結果につながりうるかを確かめたければ、2010年に「iPhone 4」で起こった「アンテナゲート事件」を振り返ってみるといいだろう。 過去の教訓 iPhone 4は、Appleが初めてiPhoneを大幅に設計変更したモデルだった。本体の側面に切れ目を入れてステンレス製のバンドを配置し、Wi-Fi、GPS、Bluetooth、セルラー接続用のアンテナとして機能させる機構だ。 ユーザーからすぐに指摘があったように、このときの問題は、ケースを着けていないiPhone 4を握ると、信号が干渉を受けるという点にあった。記者会見が開かれ、書簡が公開されたうえに、セルラー信号強度の表示の仕方を修正するソフトウェアアップデート、訴訟、ケースの無償配布という事態にまで発展した末に、問題はようやく終息した。 リリースの数カ月前に従業員が「iPhone 4G」のプロトタイプとされるデバイスをバーに置き忘れたために、情報がリークするという事件はあったものの、Appleの有名な秘密主義によってiPhone 4の公開テストが限定的になっていた可能性はある。このときのリークによると、Appleは「iPhone 3G」または「iPhone 3GS」のように見えるケースに入れてiPhoneをテストしていたという。接続の不具合は、ユーザーがケースなしで使うときにほぼ発生していたことを受け、最終的にはケースを使うことで「アンテナゲート」問題は解消された。 ところが、少なくとも1人のAppleエンジニアが、この設計に関する懸念を経営陣に訴えていたことが、2010年のBloombergの報道で明らかになった。 Appleにとっては不名誉な事件だったが、言うまでもなく、この一件でiPhoneの驚異的な成長が止まることはほぼなかった。「iPhone 4S」が発表される頃には、アンテナ問題も解決していた。現在のiPhoneでも両側面にはアンテナバンドが存在し、セルラー接続の問題は全く起こっていない(本体側面のアンテナバンドは、サムスンやGoogleなどの「Android」スマートフォンでも一般的になっている)。 Gurman氏によると、「Appleは全世界の従業員に配備した数百台のiPhoneで新しいモデムを密かにテストしており、世界各国の提携キャリアによる品質保証テストも実施している」という。新型モデムに関しては、良い知らせだ。 「新しいチップを導入するときにリスクはつきもので、操作性を大きく左右するチップなら特にそうだ。だからこそ、第1世代は、まずiPhone SEや『iPad mini』のように安価でリスクの少ないモデルで導入するだろうと私は常に思っていた」。Moor Insights & Strategyのプリンシパルアナリスト、Anshel Sag氏はこう話している。 このアプローチをとることによって、Appleは「モデムを世に出したうえで、主軸のiPhone事業による収益を危険にさらすことなく、どんなバグでも修正に励む」ことができる、とSag氏は指摘する。 調査会社Techsponentialのプレジデント兼主任アナリストを務めるAvi Greengart氏も、同意見のようだ。 「Apple(とそれ以前のIntel)はかなり前からモデムに取り組んできたが、5Gモデムの性能に関しては今のところQualcommとMediaTekが大幅にリードしており、その差は広がっている可能性が高い」、と同氏は語っている。 「それでも、フラッグシップ以外のiPhoneやiPadになら、Apple独自のモデムは『十分に良好』と言えそうだ。できることなら、『MacBook』でも使えるようになるといい。Appleはおそらく、上位製品、特にiPhoneの上位モデルにはQualcomm製モデムの採用をまだしばらく続けようとするだろう。受信状態が悪い地域や、無線に干渉するビルが立ち並ぶ都市部で使えることが、ユーザーエクスペリエンスにとって欠かせないからだ」 新しいモデムと新しいデバイスが発表されたとき、Appleの過去の失敗をユーザーが再び体験することだけはないよう願っている。 この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。