イッセイ ミヤケ出身「QUIITO」香村茉友が大切にする“服作りの美学”
⎯⎯フリーデザイナーの経験から学んだことは? 「自分がデザインし、世に出したものの責任は自分で取らなければいけない」ということを学びました。社員として働いていると雇用契約があるので当たり前に明日も仕事があるのですが、フリーの場合は自分が提案したデザインが売れないと次の仕事が来なくなってしまいます。自分が携わることでこれだけ会社に還元しなければ、という明確な意識を持つようになりました。この視点は自分でブランドを立ち上げた今、すごく活きていると思います。
誰でも服が作れる現代、香村が突き詰める「アナログな服作り」
⎯⎯ブランド名「キイト」に込めた想いを教えてください。 ブランド名の由来は絹織物になる前の糸を指す「生糸」です。生の糸と書き、染める前の自然でナチュラルでありながら力強いイメージがあるので、「素材を大事にしたい」という想いを込めて名付けました。 ⎯⎯素材というと? 資源を大切にしたいという意味では古着倉庫にある古着もそうですし、ブランドのアイテムに採用する生地の縦糸と横糸というのも「素材」に当てはまります。デビューシーズンでは全てのアイテムが古着のリメイクになりますが、来シーズン以降はリメイクアイテムも残しつつ、廃棄されるデニムの織り端を紡績し直して作った、再生生地のシリーズも展開します。自分たちで生地を作るというのは、今後ブランドとして注力していきたいポイントですね。 ⎯⎯初めて見た時はリメイクブランドかと思いましたが、それだけではないんですね。 リメイクを中心に、ゼロから作るアイテムとの二軸でやっていこうと思っています。 今は本当に多様なブランドの在り方があって、服作りを学んでいなくてもイメージを伝えれば服を作れる時代です。そんな中で自分だからこそできることは何かと考えると、「イッセイ ミヤケ」で学んだ、デザイナー自身がプロトタイプを作って趣向を凝らす「アナログな服作り」なのかなと。自分で手を動かして試行錯誤を繰り返すことで、頭の中で考えている以上のものが生まれると信じているし、この方法はリメイクのデザインに向いていると思います。 ⎯⎯デビューコレクションで「キイト」の特色が最も色濃く打ち出されたアイテムは? 今着ている、デニムジャケットとデニムパンツです。これらは古着倉庫から持ち帰った服を使って作った最初のアイテムなので、思い入れがありますね。 まずデニムジャケットは複数のデニムジャケットを解体、ドッキングして製作しているんですが、どんな大きさの服でも使用できるようパターンを工夫しています。大きさを問わず使えるようにすることで、「モノは良いのにサイズがネックで廃棄されていく」古着を減らしたいなと思いました。また、このアイテムは袖を切ってアームホールを拡張した上で付け直しているので、中に服を着込めるようなサイジングになっており、オーソドックスなGジャンにはないシルエットで提案しています。 ⎯⎯パンツはダブルウエスト仕様ですね。 2着のデニムパンツを1着にドッキングしています。デニムパンツはデイリーウェアやワークウェアとして使われているうちに、他の部分は問題なくても股の部分がボロボロになってしまっていることがあり、それが理由で廃棄されているアイテムも多いんです。こういった廃棄を減らしたいという想いで作ったのがこのアイテムで、ダブルウエストの上部分に股が破れてしまったデニム、下部分に破れていないデニムを組み合わせています。ハイウエストで着用できるようにしているのでスタイルアップにも繋がりますし、上部分だけ折って着用したりとトップスによってバランスを変えられるので、着こなしの幅も広いです。 ⎯⎯デビューコレクションは古着のリメイクのみで構成されていますが、ヴィンテージライクな印象はなく、むしろモダンな雰囲気が漂っているように感じました。 私自身がいち消費者として服を買ったり着たりするのが好きなので。自分が服を作るときも、一歩引いて「自分がこのアイテムを着たいか」という目線からデザインをするようにしています。「リメイクしたからOK」ではなく、あくまで現代の服として、自分が持っている他の服とコーディネートできるようにすることを心掛けています。 ⎯⎯香村さん自身はプライベートでどんなアイテムを着用するんですか? 服がとにかく好きなのでジャンル問わずです。古着からラグジュアリーブランドのアイテムまで幅広く着用します。 ⎯⎯どうやってデザインを組み立てているんですか? 2パターンあります。一つは自由に服を作るパターン。深く考えず、シンプルに「物体」を作るような感覚で自分で縫い合わせながらパーツを組み立てます。 もう一つは、「こんなものがあったらいいな」というイメージが先にあり、そこを目指して作るパターン。フリーランスでの仕事はこの考え方で進めることがほとんどでしたが、キイトでは2つの思考パターンを半分半分くらいで使い分けています。