倒産ラッシュ「3割赤字」のラーメン業界のウラで、巨大外食チェーンによる「個人店駆逐」の勢いが止まらないワケ
厳しい環境のなかで起きた「異変」
帝国データバンクは1月7日、2024年に発生した「ラーメン店」経営事業者の倒産(負債1000万円以上、法的整理)件数が72件にのぼったと発表した。 【写真】48年間値上げなし「1杯290円の博多ラーメン」は本当に美味い…? 前年(53件)と対比すると、実に“3割超”の急増となり、過去最多を大きく更新。また、店の業績をみると「赤字」が33.8%を占めるなど、利益確保が困難な店も急増している。 ラーメン店の倒産理由で多くを占めるのが競争激化だったが、今は物価高騰、人手不足、人件費上昇なども深刻な問題だ。 あらゆるコストが上昇し、値上げしたくても、「ラーメン1杯1000円の壁」に阻まれ価格転嫁できないまま、倒産を余儀なくされる店も多かったようだ。個人店の廃業を含めれば、相当数になるとみられる。 ところが、このような厳しい市場環境にあって、ある動きが高まりつつある。ずばり「大手外食企業の新規参入」だ。中にはM&Aにより時間をかけず市場シェアを高めている企業すら出てきている。その最たる例が、牛丼の吉野家ホールディングス(HD)だろう。 吉野家HDは1月7日、鶏白湯ラーメン、台湾まぜそばを主力とする京都発のラーメン店「キラメキノトリ」などを展開するキラメキノ未来を子会社化した。ラーメン関連のM&Aはこれ以外にも、昨年5月にやはり京都市でラーメン店向けの麺・スープなどを製造する宝産業の買収など、計4回行われている。 一連の積極的な展開によって、吉野HDが抱えるラーメン事業の店舗数は現時点で合計129店舗(国内95店舗、海外34店舗)にもなっている。 物価高騰、競争激化と店を取り巻く環境は激しいが、安定需要があるだけに、ラーメン市場は成長余地があると判断した結果の買収であろう。吉野家HDは、グループ企業の経営資源を適切に分配しながら有効活用し、グループ全体の価値最大化を目指すようだ。
まだまだチェーン展開の余地がある
無論、吉野家HDだけでなく、ラーメン市場を狙い、有名店とコラボし集客力を高めるファミレスや回転寿司など異業態の外食企業、さらに食品メーカーも多くの商品を投入するなど参入する企業は多種多様。市場のレッドオーシャン化は凄まじい様相を呈している。 なぜそうまでして、皆一様にラーメン市場に押し寄せるのか。それは市場環境の独特さにある。 ラーメン店は全国に1万8000店舗あり、需要は6000億円市場と推計される。一般的に外食、例えば牛丼やレストラン、喫茶店などのシェアは、チェーン店が大部分を占めるのが普通だ。 ところが、ラーメン市場は違う。店舗数のうち約半数が個人店と、チェーン店と店舗数は拮抗している(経済産業省の経済センサス活動調査)。そのため、まだまだ個人店を押しのければ、チェーン展開を広げられる余地がある、という見方がされている。 この流れは冒頭の、過去最多の倒産件数にもつながっていく。薄利多売の経営スタイルが多い個人のラーメン店はどうしても今の環境では資金繰りに苦しみやすい。その中には、これ以上借金が膨らまないように、廃業を急いだり、店舗価値がある内に売却を決める店もあるのが実情。 こうした個人店たちを今、資本力のある企業のチェーン店がどんどん飲み込み、その規模を広げているというわけだ。この流れは、食材や光熱費、人件費などのコスト高が収まらない限り、今後もしばらく続くだろう。 そんなラーメン市場の中で、とりわけ近年、勢力を伸ばしている存在がある。関西を地盤に全国展開を目指すチェーン店たちだ。ずんどう屋、どうとんぼり神座、横綱ラーメン――彼ら関西発ラーメンチェーンの強さとは何か、詳しく見ていこう。