タペストリーによるカプリ買収に「待った」 市場の番人に誤謬はないのか【鈴木敏仁USリポート】
アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。「コーチ」などを傘下に持つタペストリーは、「マイケル・コース」などを展開するカプリ・ホールディングスを買収しようとしたものの、米国連邦取引委員会から「待った」がかかった。この件は、フェアなマーケットとは何か、国がどこまで介入できるのか、といった根本的な部分で議論を呼んでいる。問題を整理してみよう。 【画像】タペストリーによるカプリ買収に「待った」 市場の番人に誤謬はないのか【鈴木敏仁USリポート】
タペストリー(TAPESTRY)によるカプリ・ホールディングス(CAPRI HOLDINGS以下、カプリ)の買収計画に米国連邦取引委員会(FTC)が待ったをかけた。両社が所有するブランド間の競合がなくなることで独占状態になるとして、買収取引の中止を求めて訴訟を起こしたのである。両社が合意し正式発表されたのが昨年の8月だったので、半年強をかけて準備して訴訟に踏み切ったことになる。
タペストリーは「コーチ(COACH)」「ケイト・スペード ニューヨーク(KATE SPADE NEW YORK)」「スチュアート・ワイツマン(STUART WEITZMAN)」、カプリは「マイケル・コース(MICHAEL KORS)」「ヴェルサーチェ(VERSACE)」「ジミー チュウ(JIMMY CHOO)」を所有する。両社ともに複数のブランドを運営するコングロマリット型企業だ。買収総額は85億ドル(150円換算で1兆2750億円)、統合後には年商120億ドル(同1兆8000億円)企業が誕生する計画だった。
昨年の計画発表の時点で、タペストリーの年商は67億ドルで、対前年比で成長率はほぼフラット、カプリは56億ドルでこちらも成長率はフラットだった。ブランドの成長に天井が見えてきたときに取るべき手段は、別ブランドの新規開発、または買収だが、手っ取り早いので後者を選ぶケースが多いことはご存知のことだろう。
そういう状況での統合に対する当局による否定的な動きに対して、意外だとする見解が業界には少なくない。