タペストリーによるカプリ買収に「待った」 市場の番人に誤謬はないのか【鈴木敏仁USリポート】
“アフォータブルハンドバッグ”を法的に定義できるのか
FTCはこういうコメントをしている。
「消費者による『手頃な価格のハンドバッグ(Affordable Handbags)』を求める競争を奪う恐れがある」
一方のタペストリーは異議を唱えており、ステートメントの中で“手が届くラグジュアリー(Accessible Luxury)”という表現を使っている。この手頃な価格で手が届く高級品市場の定義が争点で、FTCは2社統合で独占になるような狭い市場だとみなしていて、一方の当事者や業界の専門家の多くはもっと広い市場だとみているのである。
このFTCの姿勢はバイデン政権の考え方を反映しており、委員長のリナ・カーンが政権によって責任者に据えられてから一貫しているものだ。
小売業界では現在2つの案件が係争中である。1つめがアマゾン(AMAZON)、2つめがスーパーマーケットのクローガー(KROGER)による同業のアルバートソンズ(ALBERTSONS)買収計画だ。
アマゾンに対しては、サードパーティーセラー(3Pセラー)への独占的な地位を利用し、アマゾン以外の競合他社で安く売らせないようコントロールしていて消費者が不利益を被っているとするのがFTCの論旨。クローガとアルバートソンズは、タペストリーと同じで市場が寡占化するという論旨である。
アマゾン案件については、アマゾンによる3Pセラーに課す取引条件はほぼ業界標準であることや、アマゾンがEC市場で大きなシェアを持ちつつも、越境ECのシーイン(SHEIN)やティームー(TEMU)が一気に成長しはじめるなど競合状態はいまだ苛烈なのと、リアル小売市場との競合も当然のことながら存在し、アマゾンが独占的地位を利用して3Pセラーをコントールしているという論旨に懐疑的な見方が多い。
一方のクローガーは簡単だ。食品リテール市場のトップはウォルマートで25%弱を握っており、以下クローガー、コストコ、アルバートソンズと続き、クローガーとアルバートソンズが統合してもウォルマートには届かず、両社が統合しても独占にはほど遠いのである。アメリカの食品リテール市場は細分化されており、単独企業が価格をコントロールするのは難しく、可能性があるとするならウォルマートだが、まだ先のことになるだろう。