タペストリーによるカプリ買収に「待った」 市場の番人に誤謬はないのか【鈴木敏仁USリポート】
この点については、FTCによる食品リテールに対する見方は1980年代から変わっていないという専門家による指摘がある。伝統的なスーパーマーケットに対して、ウォルマート、コストコ、アルディ、トレーダージョーズ、アマゾンを筆頭としたECなど、米業界用語で言うところのオルタナティブ(代替)フォーマットが視野に存在しないという見方である。
大統領選の結果にも左右される
この2件と今回のタペストリー案件は市場の定義の食い違いという観点で相似している。FTCの見解を裁判所が認めるのかどうか、実に興味深いのである。
また万が一、今年の大統領選で共和党のトランプが勝つと、カーン委員長は更迭される可能性があり、訴訟が取り下げられることもあり得る。政治に左右される案件なのである。
ちなみに食品リテール市場がほぼ寡占化して問題化しはじめている国もある。
インフレが収束しつつある中でスーパーマーケットの価格がなかなか下がらない状況に業を煮やしたカナダ政府が、海外企業を誘致して新たな競争環境を作ろうと計画していることが報じられた。ロブロウ、ソビーズ、メトロの3社でシェアが半分を超えており、3社が市場をコントロールしていると主張している。
実は某大手食品メーカーの営業責任者から、カナダの市場は寡占していると聞いたのは10年以上前のことである。業界では知られた事実で、それ以降も3社による競合企業の買収は続き、カナダ政府がなぜ傍観してきたのか理由は分からない。
FTCが買収計画に反対して反古にし、買収対象だった企業が別の会社に買収され、その後に衰退し縮小に向かっている例もある。オリジナルの計画通りに強い企業が買収していればてこ入れに成功し、社員が解雇されることはなかったかもしれない。
政府介入による市場のコントロールは容易ではない。何が正しいのかは神のみぞ知るといったところか。M&Aが消費者に与える影響は判断の非常に難しい分野だと思っている。