相手の立場に立つのは当然⁉...現代人が必ず実践すべき「本当に」相手を考えた振る舞いとは
取引先の社長の教え
山田社長はこの風体でホテルのオフィスに入ってくるので、事務長の秋田さんからいつも叱られています。まるで娘から小言を言われるお父さんのようですが、山田社長は普段から私にもいろいろと声を掛けてくれます。彼が口癖のように言っていたのは「いいか、ホテル業でも何でも同じだが、『相手の立場に立って考える』のは当然だ。そこからもう一歩進んで本当に相手のことを考えてものごとをやるということだ。お前たちの仕事も同じだぞ」と。確かにその通りです。「じゃあ、社長。まずはその格好で事務所に入ることはやめてくださいね」と秋田さんから言われ、一緒に大笑いしていました。 それからしばらくして、事務所にお伺いした時のことです。 「社長のお姿を駐車場でもお見かけしませんがお忙しいのでしょうか。このところオフィスにも来られてないようですが……」 「じつはね。体調を崩して、いま入院しているのよ。あの体形だから、あちこち悪くて……」 秋田さんが少し困ったような表情で答えてくれます。そう言えばちょっと動いただけで大汗をかきながら肩で息をしていました。そんな社長を思い出します。 「よろしければお見舞いに顔を出してもいいでしょうか」
相手の立場に立つということ
「ありがとう。喜ぶかもしれないけどお見舞いにお菓子とか持って行かないでね。甘いものは先生に止められているみたいだし、お花も社長にはどうかと思うので、手ぶらでお願いね」と入院先を教えてくれました。お見舞いは顔を出すだけでも良いのかなとも思いますが、手ぶらで行くことには少し気が引けます。 「はて、どうしたものか。お見舞いに行くのは取引先だから当然と言えば当然。本当に相手の立場に立って考えると……」 その時、ちょっとしたアイディアが浮かびました。 翌日、社長の病室のドアをノックします。「はい、どうぞ」の声を聞いて病室に入ると、退屈そうにベッドで寝ている社長がいつもの調子で話してきます。 「おお、来てくれたか。仕事中に悪いなぁ。でも、すぐに良くなるから心配はいらんぞ」 「体調が良さそうで何よりです。これ、ホテルの近くの神社でいただいてきました。ちゃんとお願いもしてきたので早期回復間違いなしです」 そう言って病気平癒のお札をお渡ししました。ホテルのオフィスには神棚があり、お札をいただいてきた神社の名前が入ったものもあったのでお見舞い品にしました。社長はとても喜んでくださり、病室を後にしました。相手のことを考えた一工夫が良かったと思いました。