たとえ相手が侮っても、やるべきことは変わらない。日本の超速ラグビーはオールブラックスを“追い詰める”ことができるか?
今回ボスが繰り返すフレーズは「追い詰める」。かつてオーストラリア代表、イングランド代表を率いてオールブラックスを倒してきたのを踏まえ、こう語る。 「ニュージーランド代表を追い詰める準備を進めてきた。プレッシャーをかけ続けないと勝利は得られない」 自前の『超速ラグビー』というコンセプトのもと、素早い連係、素早い走り込みで向こうを慌てさせるつもりだ。 ボールを保持するか、穴場へ蹴り込むかのチョイスでも先手を取る。この手のジャッジを下すスクラムハーフでは、藤原忍がスタメンを張る。意気込みは簡潔だ。 「一瞬、一瞬の判断を大事にしていきたい」 いったん球を手離すキックを選んだならば、捕球役の周りへ一斉に網をかける。オールブラックスのお家芸たる、混とん状態からの即興的なアタックを未然に封じたい。 後衛には韋駄天を並べる。フルバックで早大2年の矢崎由高はその象徴だ。各自のスピードを「プレッシャー」に昇華する。 局面が蹴り合いに転じても、献身的なカバーリングと戻りで陣地を守る。攻め返しを図る。ウイングのマロ・ツイタマは決意する。 「バックフィールド(後ろのスペース)のカバー、守備…。大切になってきます」 連続攻撃を仕掛ける際は、接点への援護役が注視される。 骨格と腕力に長けるオールブラックスは、接点で球出しを鈍らせにかかるだろう。それに対し日本代表の援護役は、走者を『超速』のイメージで支えたい。 ジョーンズは述べる。 「サポートで、ハードワークする。ニュージーランド代表の防御を見ると、我々のアタックでは(走者が)半身、前に出るようなことができると思う。ただ、そうなるとどうしても走者が(孤立しやすくなる分)もろさが出てしまう。そこへいかにサポートがつけるかというトレーニングをしてきました」 向こうがストロングポイントに掲げそうなスクラムでは、低い一枚岩のパックを意識。最初のつかみ合いで間合いを詰め、それぞれの対面の胴体を丸めながら組みたい。これも「ジャパンらしく」にあたる。 最前列中央のフッカーでは、ワールドカップ(W杯)経験者の坂手淳史がスターターとなる。新進気鋭の原田衛はリザーブだ。 指揮官は説く。 「坂手にはスクラムの基盤を作ることを期待します。原田もフィニッシャーとして重要な役割を担っています」 オールブラックスがどんなメンタリティにあっても、日本代表がチャレンジャーの立場であることは変わらない。 今年6月以降のテストマッチではいまのところ黒星先行。今度のメンバーでも、キャップ数が0から9の選手は23名中12名と先方よりも多い。成長途中にあって巨木にぶち当たる格好だ。 もっともそのシチュエーションさえ、うってつけの舞台装置に見立てるつもりのようだ。このほど昨秋以来のテストマッチ出場となるフランカーの姫野和樹は、己に言い聞かせるように発した。 「日本は、弱い国じゃない。強い国。その自信を持って臨む」 取材・文●向風見也(ラグビーライター)
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