ハイエイタス・カイヨーテが語る自由、宇宙、サイケデリック 愛と喜びのチート・コード
変幻自在のサウンドと型破りな実験精神で、ここ日本でも絶大な人気を誇るハイエイタス・カイヨーテがカムバック。引き続きBrainfeederからのリリースとなる3年ぶりの最新アルバム『Love Heart Cheat Code』を、「喜びでいっぱいのアルバムにしたかった」とネイ・パームは語る。バンド史上最大の危機を乗り越えた前作『Mood Valiant』を経て、最強の4人組がたどり着いた現在地とは? ネイとペリン・モスをZoomで取材した。 【画像を見る】ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高の500曲」
変人であることの自由
─なぜアルバムのタイトルを『Love Heart Cheat Code』にしたのでしょうか? ネイ:「Love Heart Cheat Code」は最初、声に出したときの響きが気に入っていたの。私たちの創造的過程は直感的なものからスタートすることが多い。その後で、そこにある意味を見つけていく。ゲームでチート・コード(Cheat Code:裏技)を使うと、先のステージに早く進むことができるでしょう? 「Love Heart Cheat Code」というのは、人生のチート・コードのようなものだと考えたの。いつも不機嫌で、怒ってばかりいたら人生は辛いものになる。でも愛情(Love Heart)を持って生きていれば、それは世界へのチート・コードとなる。世界が開けてくるから。私たちは常に、意図的に愛情を持って前に進んでいこうとしている。「Love Heart Cheat Code」は、私たちが目指している活動を、キュートでクールなテーマで表現した言葉だと思う。 ─アルバムのコンセプトについてはいかがでしょう? ネイ:ある決まったフォーミュラ(公式)があって、それに当てはめようとするとアートではなくなってしまうと思う。同じような音楽を繰り返し聴きたくないでしょう? ツールを開発していくのは良いことだと思うけれど、今までにやってきたことを再現するというヴィジョンしかなかったら、誰にとっても楽しくないと思う。 でも、私たちの音楽は、各曲において明確なテーマがある。例えば、先行リリースしたシングル「Telescope」は宇宙についての曲。曲に明確なテーマがある場合は、それを追求することで曲作りを進めていくことができる。だからこの曲には、NASAが捉えた実際の宇宙の音が入っているし、曲の歌詞は、各バンドメンバーの誕生日にハッブル宇宙望遠鏡を通して見えるものについて歌っている。曲にテーマがあるとすごく楽しく曲作りができるわ。私は「宇宙」から、アリス・コルトレーンやサン・ラ・アーケストラを連想する。だからこの曲ではサン・ラを引用しているし、ハープを取り入れたりしている。そういう感じで、曲ベースではテーマを追求しているんだけど、アルバムを通して一貫したテーマがあるというわけではないってこと。 ―サン・ラやアリス・コルトレーン以外で、『Love Heart Cheat Code』の影響源があったら聞かせてください。 ネイ:フランク・ザッパかもしれないわね。バンドのベース奏者である(ポール・)ベンダーが教えてくれたザッパの言葉があるの。「曲があったら、それに眉毛を加えないといけない」。この言葉について私は結構考えていた。「この曲にはどうやって眉毛を加えたらいいんだろう?」と。「Make Friends」という曲には、みんなで合唱できるような、ちょっと変わったパートが入っていて、ザッパの風変わりなところに通じるものがあると思う。ザッパのサウンドがインスピレーションになったというよりも、彼の「変人であることの自由」みたいなところにインスピレーションを感じた。それから「Dimitri」という曲はドミートリイ・ショスタコーヴィチというロシアの作曲家がインスピレーションになっていて。彼の脳には弾丸の破片があって、その影響で頭の中から音が聴こえたらしい。その音をベースに作曲していたらしいわ。そこで鉄を表現するサウンドを出すために、自転車を使って、それを逆さまにして、ヴァイオリンの弦で、回っている車輪を弾いたの。そうすると甲高い、鉄の音がするのよ。 ペリン:それも実はザッパなんだけどね。彼は初めてのテレビ出演で、自転車を使って演奏したんだ。 ネイ:ふふふ(笑)。だから曲それぞれに明確なインスピレーション源があるというわけじゃないんだけど、色々な要素を取り入れて曲に織り込んでいるの。だって、完全にオリジナルなものなんて存在しないと思うのよ。すでに自分が持っている情報を、何か別のものに転換しているだけだと思う。 ペリン:各自が今まで受けてきた影響を各曲に反映していると思う。でも個人的には、今回のアルバムでは以前と比べて他のアーティストを参考にしなかった。それがなぜかは分からないけれど、今まで自分の耳を通過してきた影響を信用して、その全てを参考にしていたからかもしれない。僕からすると今回は、今までと少し違って、これまで受けてきたあらゆる影響を「自分」という存在を通して表現したように思う。 ネイ:自分たち独自のサウンドを理解していく過程の方が強いと思う。そして、それは試行錯誤していくしかない。だからこそ、私たちの音楽を聴いた人はみんな、それがハイエイタス・カイヨーテのサウンドだと分かってくれるんだと思う。それぞれのバンドメンバーが、自分たちの中から出てくるサウンドを発展させていくということに非常に真摯に向き合っているから。 ペリン:何かを無理矢理やろうとするのは不自然な感じがする。あるサウンドを無理に表現するには何年もの練習が必要になる。だからまだ曲として完成していないものがあるのかもしれない。曲のアイデアがあっても、それが自分たちの納得がいくものになるまで4~5年かかることもあるんだ。それができて初めて、どうやってレコーディングするかとか、どんなサウンドに仕上げるかということを考えていく。こういうことは僕たちの間ではよくあることなんだよ。でもそういう、時間をかけた過程も気に入っている。曲によってはすぐに完成するものもある。アーティストによっては、自分が表現したいことを無理やり出そうとする人がいるけれど、僕たちにとって音楽制作は絵を描いているような感覚に近いんだ。絵を描いていて、その途中で新しい色を加えるインスピレーションが湧かない時がある。その理由は、新しい色を加えるのが怖いとか色々あると思う。僕の個人的なアプローチとしてはミュージシャンよりは画家のそれに近いものがある。だから曲によっては作品として完成させるまでに時間がかかるものもあるんだよ。