PassCodeが新章突入 レーベル移籍、海外ツアー、成長と葛藤を南菜生が語る
移籍第一弾シングル「WILLSHINE」への想い
移籍第一弾シングルとなる「WILLSHINE」は、これまでと同様にPassCodeのサウンドプロデューサー平地孝次が作編曲を手掛けている。疾走感があり、爽やかでメロディアスなナンバーだが、ここまでストレートに展開する楽曲は久しぶりだ。とはいえ、そこはPassCode。現在「SHY」でオンエアされているパート以降は、有馬えみりの咆哮がこれでもかと唸りをあげているだけでなく、キュートなラップやPassCodeとしては珍しいセリフパートも挿入され、正統派に見せかけながらも豊富な仕掛けが待ち受けている。 「今年に入ってからけっこうレコーディングをしていて、どれもいい曲なんですよ。平地さんとも『最近、めっちゃ調子よさそうですね』『そうやろ?』みたいな話をしてたぐらい。けど、『WILLSHINE』はその中でも一番最近つくった曲で、それまでに録った曲とは違った雰囲気のものにしないといけないからさすがに大変だろうと思ってたらわりとスムーズに出来上がって、『やっぱ、平地さんって天才なんちゃう?』って平地さんにLINEしたら『せやろ? 最高やろ?』みたいな(笑)。正直、アニメのタイアップとなるといつものPassCode節は出されへんのかなってちょっと不安に思うところもあったんですよ。けど、この曲はアニメサイズではPassCodeの光の部分がフィーチャーされていて、私が『SHY』を観てそこだけを聴いたらカラオケで歌いたいって思うぐらいいいメロディなんですけど、一曲とおして聴いたらあまりの展開に驚愕してマイク投げ捨てちゃうと思う(笑)。そういう意味ではPassCodeファンの方に安心してもらえる曲になったと思います。新しいことはやってるけど、それでも『変わらんな』って」 活動環境が変わった今、彼女たちが目指しているものはなんなのだろうか。 「PassCodeを好きな人たちだけで埋め尽くされている大きな会場でライブがしたいです。PassCodeはライブハウスをメインに活動しているグループやけど、ホールみたいな大きなステージにも立てる存在でありたい。ひとつ、武道館に関して悔しかったことがあって、武道館の半年前ぐらいに私の父が大動脈解離になって一時は命の危険があるような状況だったんです。だから、コロナが流行ってる中では絶対にライブなんて観に来れなくて。それと同じように、あの頃はみんなそれぞれ背負うものがあって、特に医療関係の仕事をしてるファンの子からは『どうしても行きたかったけどまた新株が出ちゃったから行けなくなった』っていうDMをもらったりもしてたんです。だからそういう人たちのためにも、PassCodeは関西のグループやし、次は大阪城ホールでやりたいっていう話はしてます。でも、やりたいって言うのは簡単やから、現実的にどうやったらそこに立てるのか考えないといけない。PassCodeと同じように激しめな音楽をやってるバンドの話を聞くと、やっぱりコロナ禍以降、どこもライブの動員がめっちゃ落ちてるらしいんですよ。PassCodeも停滞していて、それはある意味安定しているということでもあるんですけど、今の状態で城ホールを目指すというのは難しいんですよね。ずっと私たちについてきてくれる人たちはもちろんいるけど、途中でリタイアしちゃう人もいるわけじゃないですか。それを上回るぐらいたくさんの人にPassCodeのことを知ってもらわないと結果としてマイナスになっちゃう。でも、PassCodeってなかなか入っていきづらいグループやと思うんです。音楽性もそうやし、グループのカラーもすでに確立されてるし。それに、新しいグループに比べて、10年以上続いてるグループを応援するのは面白味がないっていうこともわかってるんですよ。それでもPassCodeと一緒にどこまでも行きたいっていう人を増やしていかないとなって……私、アイドル側が言う『推しは推せるときに推せ』っていう言葉がすごく苦手で、『私たちはいつでもライブハウスにいるから気が向いたときに来てね』っていうスタンスでいるんですけど、それだけじゃダメなんですよね。難しいなと思う。悩み中です」 たしかに、PassCodeの活動は安定している。だからつい忘れてしまいがちだが、アイドルグループが10年以上にわたってシーンの最前線に立ち続けるというのは非常に稀なことだ。しかも、PassCodeが所属するのは大阪・堺に居を構える、何の後ろ盾もない小さな事務所。ほぼライブの力のみで今の活動をキープしている。南は今、今後の活動について悩んでいる最中だと言うが、活動を長く続けるというのはそれだけで素晴らしいことだと思う。今では珍しくないが、MCで自分の胸の内を熱く語るというスタイルは数年前のアイドルシーンにおいて南の専売特許だった。かつては過剰に強い言葉を使ったりもしていたが、今はより自然体になっている。そんな筆者の感想を受けて、彼女は振り返った。 「昔は本当にギリギリの状態でステージに立ってたから、みんなに向かって思いを伝えながら、自分に対しても頑張れ頑張れって言ってるような感覚でした。でも今は、純粋に誰かを幸せにしたいという気持ちをストレートに伝えることができてると思う」 それはやはり、年齢を重ねたことが大きいという。 「年齢を重ねるたびに話せることが増えてすごく楽しいんですよね。だから、今は歳をとることに抵抗がない。歳を重ねるとアイドルを続けることが難しいっていう話はよく聞きます。でも私は、もちろん自分のことをアイドルだと思ってはいるけど、30歳になっても、35歳になっても、40歳になっても、今以上に話せること、表現できることが増えるのかなって思うとすっごいワクワクする。これって幸せなことだなって思う。昔は『もっとロックしてないと』みたいに思うこともあったけど、今は人として柔らかくなった気がします。ステージに自分という人間がそのまま立ってる感じ」 そう、今のPassCodeはオンステージとオフステージの差が限りなくゼロ。楽屋でのテンションのままステージに向かっている。気持ちのスイッチの切り替えが見えないのだ。そういう意味でPassCodeは、もはや偶像(アイドル)ではなく、生身の人間として己を舞台でさらけ出していると言える。これは長年活動を続けてきたからこそ辿り着いた境地だ。