PassCodeが新章突入 レーベル移籍、海外ツアー、成長と葛藤を南菜生が語る
武道館後の「変化」とは
しかし、その後のライブパフォーマンスは武道館までのものから微妙に変化していた。武道館公演から約3カ月後、大阪城音楽堂で行われたワンマンライブ後、長年にわたって彼女たちのライブを支えているPAスタッフから言われたひと言に彼女はハッとした。 「『武道館が終わって目標がなくなったから、それがライブにも出ちゃってる』って。自分たちとしては観に来てくれた人たちに楽しんでほしい、ライブができて嬉しいっていう気持ちで臨んでいたけど、確かに武道館にたどり着くまでの雰囲気と違うというか、ピリピリ感がないというか……ファンに喜んでもらいたいっていう気持ちのほうが強くなっちゃってたんですよね。そのことに気づいて、『ライブに対するスタンスがちょっと変わっちゃったのかな、これはよくないな』って」 そこで南は自分自身を見つめ直し、これまでよしとしていた環境に変化を加えることにした。具体的にいうと、イヤモニの設定を変えたのである。PassCodeのボーカルはオートチューンがメインなのだが、南はこれまでイヤモニには自分の生声を返していた。しかし、バンドマンの仲間に相談した結果、イヤモニにもオートチューンの声を返すことにし、そのおかげでやりやすさが増し、自身のパフォーマンスが大きく向上した。頻繁にライブを観ている観客にでさえ伝わりづらい変化ではあるが、彼女にとっては非常に大きな出来事だった。さらに、世の中的にコロナ禍による規制が徐々に緩和されていったこともあり、南はスランプから脱却することになる。 しかし、PassCodeに対する世間の目は依然として変わらなかった。武道館まで到達して“アガリ”を迎えたグループ――PassCodeの成功を“最後まで”見届けたというアイドルファンは多かった。その認識をひっくり返して再び注目を集めることは容易ではない。そんなときにPassCodeに届いたのが、自身初となるアメリカツアーの話だった。しかし当初、彼女はあまり乗り気ではなかった。 「PassCodeの曲は、すごく重たい音楽が好きな海外の人にとっても耳馴染みがいいっていう自負はあったけど、PassCodeはライブ中に自分たちの思いを言葉で伝えるということを2016年にメジャーデビューする前からずっと続けてきたグループやったし、ほとんどのメンバーがそんなに英語が上手じゃないっていうこともあって不安で。でも、グループって挑戦し続けないと衰退していくだけじゃないですか。だから、今までやってなかったことをやろうということでアメリカに行く決断をしたんです」 彼女たちの不安は杞憂に終わった。ダラス、ニューヨーク、ロサンゼルスの各会場には現地の熱心なファンが大勢集まり、ライブ後には盛大なPassCodeコールが起こった。3都市3公演という短いツアーではあったが、チーム全体が欧米での活動に大きな手応えを感じるには十分すぎる結果だった。 「ステージをしっかり観て、音楽を聴いて、体を揺らして、こっちが手を振ったらお客さんも同じように手を振ってくれて、っていうことがアメリカのライブでは起こらないと思ってたんですよ。しかもみんな、日本人のアーティストが来たからなんとなく観に来てるんじゃなくて、ちゃんとPassCodeの曲を聴き込んでくれてたし、私たちがライブしに行くことを楽しみに待っていてくれていたのが伝わってきたんです。それって日本でのライブと変わらないじゃないですか。このツアーを通じて、海外ツアーに対する考え方とかやり方が自分の中で大きく変わりました」 4人がレーベル移籍の話を聞いたのは渡米前、SUMMER SONICの会場でのことだった。意外なことに、彼女たちは悩むことなくあっさり移籍にOKを出したという。「交わした言葉はふた言ぐらい。『北田さんも行くの? それやったらOK』って」「北田さん」とは前所属レーベルで長年にわたってPassCodeのディレクターを担当してきた北田大氏のこと。以前から北田氏とメンバーの間ではこんな会話が交わされていたという。「北田さんが別のレコード会社に移籍するんやったらPassCodeも連れて行ってくださいよ、逆に私たちが移籍したいって言ったら一緒についてきてくれるんですか? お願いしますよ? みたいな話は前から軽くしてたんです」 ちなみに、北田氏だけでなく、PassCodeとチームの結びつきは強い。「結局、どこでやるかじゃなくて、誰とやるかなんですよ」と南は言う。バンドメンバーとの団結力も日に日に増している。PassCodeのバンドメンバーは固定ではない。スケジュールによってメンバーの顔ぶれが変わることも多いが、今のPassCodeにとってそれは大きな障害にはならない。 「以前は、バンドメンバーが1人違ったらその日のセットリストの曲をリハで全部確認しないと不安だったけど、今はライブ当日にバンドメンバーがいつもと違うことを知ったとしてもリハで何曲か合わせれば十分だし、急にセットリストが変わったとしても対応できる。PassCodeがつくり上げていきたいと考えてるものがバンドメンバー間でもしっかり共有されてるから、ブレが少ないんですよ。すごくやりやすいです」 話を戻す。レーベル移籍を果たしたものの、制作陣の顔ぶれは一切変わらず、シンプルに新たな仲間が増えた。「新しいレーベルのオフィスに何回か行かせてもらう中でいろんなスタッフの方々と挨拶させてもらったんですけど、そのときに『来てくれてありがとう! がんばろうね!』って声をかけてくれたりして、すっごいあたたかい雰囲気だったんですよ。だから、これからもっと関わりが深くなっていくのが楽しみですね。すごくうれしいです」