広岡達朗「結果に満足してほしくなかった石毛宏典を挑発。あえてライバルを丁寧に指導して…」合氣道家・藤平信一が探る<妥協させない指導法>
どんな仕事もスポーツも勝って成果を上げるためには、妥協せず自分を追い込むほどの厳しさが欠かせません。一方でハラスメントを恐れるあまり、「ぶれなさ」「必死さ」を次の世代にうまく伝えられないリーダーが増えているのではないでしょうか。国内外の経営者が師事する「心身統一合氣道会」会長藤平信一氏のもとにも、指導者の悩みが多く寄せられています。厳しさとハラスメントの根本的な違いは何なのか?多くのリーダーを見てきた藤平氏が広岡達朗さんとの対話をもとに語ります。 【書影】若い人へ「勝負の厳しさ」をどう伝えるか?新時代の育成論『活の入れ方』 * * * * * * * ◆稽古より掃除の時間が長い 別の記事で触れた九重親方(元大関・千代大海)とのお話の中で、私の修行時代にもぴったり当てはまることが、いくつもありました。 「稽古より、掃除の時間のほうが長い」というのは、その典型です。 こんなことがありました。私がまだ20代前半の頃の話です。 「掃除なんて合氣道と関係ないのに」と思って、嫌々やっていたら、師匠に呼び出されて、「お前、掃除なんて合氣道と関係ないと思ってるだろ?」と、ズバリ言い当てられました。 「そんなことありません」と取り繕ったのですが、「うそをつくな。顔に書いてある」と。なぜ、それほど掃除をするか、当時の私にはその意味がわからなかったのです。私の場合、稽古の時間を「1」だとしたら、掃除の時間は倍の「2」でした。 九重さんも同じで「ひたすら掃除をしました」と言っています。九重さんは、その理由を、次のように推測してくださいました。 九重親方:「はっきりした理由はわかりません。でもやはり、精神の鍛錬なんだと思います。 一つのことに心を込められるかどうか。うちの師匠も、俺が嫌々やっているのを見抜いていたんでしょうね。で、こう言うんです。 『トイレ掃除をよくした人は横綱になってるぞ。北の湖も大鵬も全員やった。あの貴乃花だってやってたよ。もちろん、俺もやったよ』と。そんなふうに言われると『よし、やるか』となる。俺、単純だなって思うけど(笑)。 でも不思議なもので、地道にやっているうちに好きになるんですよ。真剣にやるようになる。そして、相撲も強くなっていくんですね。悪と断じる現代の風潮は、逆に乱暴なような気もするのです。」(以上、九重親方)
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