「貯蓄から投資」の時代なのに…監視委の告発低調 今こそ求められる「市場の番人」の奮起
投資環境の透明性を確保するため証券取引等監視委員会が検察に行う刑事告発の件数が、低調に推移している。今年度は、「貯蓄から投資へ」を掲げる経済政策推進の方針が政府から示されて迎える初年度に当たる。法務・検察関係者は「政権の方針と逆行する状況が続くことは避けたいところだ」と、危機感を募らせる。 ■検察改革の一環 検察が独自捜査偏重から監視委らとの連携を強化する方向へかじを切ったのは平成23年。大阪地検の証拠改竄(かいざん)事件を契機とする、検察改革の一環だった。 法務省の検察統計年報などによると、株投資を巡り検察が監視委から金融商品取引法(旧証券取引法)違反の告発を受けた件数は22年度に8件だったが、方針転換後の23年度は15件に急増。ただ24年度は7件と減り、以後も一ケタ台で推移。令和6年度は12月に入っても3件にとどまった。 証券犯罪の告発は、任意での調査や強制調査(家宅捜索)の結果に基づき、受理する地検と実施する監視委が入念に事前協議した上で行われる。 証券犯罪に詳しい弁護士は「株式投資をうたった特殊詐欺が近年増加傾向にあることを考えれば、証券犯罪が減少しているとは思えない」と話す。 ■「兄弟」の関係 監視委と検察との関係は深い。 4年12月に監視委のトップである委員長に就任した中原亮一氏は、平成24年7月から翌年7月まで東京地検特捜部長を務めた経済事件のエキスパート。19年7月に就任した前々任の佐渡賢一氏、28年12月に就任した前任の長谷川充弘氏も、ともに東京地検特捜部の副部長を経験している。 一方、検察ナンバー2の東京高検検事長を務める斎藤隆博氏は特捜部長の経験だけでなく、監視委への出向経験もある。法務省関係者は「検察と監視委は『兄弟のようなもの』とみている人もいる」と解説する。 東京地検特捜部が金融商品取引法違反や特別背任の罪で逮捕・起訴した日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告=海外逃亡中=が報酬を有価証券報告書に過少記載したとされる金商法事件も、監視委の告発後に特捜部が起訴している。 ただ、ゴーン被告の共犯に問われた同社元取締役のグレゴリー・ケリー被告=控訴審で公判中=の1審判決では検察が過少記載とした8年分のうち大半の7年分が無罪とされるなど、金商法事件は密室犯罪である汚職や法解釈が複雑な脱税と並び、捜査が難しい事件だ。