「貯蓄から投資」の時代なのに…監視委の告発低調 今こそ求められる「市場の番人」の奮起
法務省関係者は「だからこそ特捜部の出番となるケースも多い。監視委からの告発受理件数が少ないのは、同じベクトルを向いているはずの検察からコンセンサスを得られる調査結果を、監視委側が出せなかったということではないか」と語る。
■法曹界も「汚染」
貯蓄から投資へ-。平成13年に小泉純一郎内閣(当時)が初めて掲げたスローガンについて、岸田文雄内閣(同)は令和5年6月、改めて政権の最重点政策と位置付けた。
法務・検察幹部は「政府の方針かどうか以前に、株式市場を健全化させることは刑事司法の責務のはずだ」と指摘する。
こうした中で、監視委は法曹界を揺るがす事件を手掛けることになった。
インサイダー取引事件に関与したとして監視委は昨年12月23日、金商法違反の罪で金融庁に出向中の元裁判官や東京証券取引所の職員らを特捜部に告発。特捜部が同25日に在宅起訴したのだ。
裁判官の出向は法律家として広い視野を養うことが目的で、いったん検察官に転官した上で、各省庁で働くのが通例だ。
法務・検察幹部は「証券犯罪の汚染が裁判官にまで広がっていた事実に、ショックを受けた法曹関係者は少なくない」と指摘。「監視委や検察にとっても身内の不祥事といえ、一気に幕引きを図る必要があった」と打ち明けた。
「市場の番人」とも称される監視委。厳格な姿勢で成果を出すことが、今こそ求められている。(大島真生)
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■証券取引等監視委員会 バブル経済の崩壊に伴い証券会社各社が巨額の損失補塡(ほてん)を行っていたことが発覚した平成3年の証券スキャンダルを受けて、証券業界の検査・監視機関として翌4年に発足した。米国のSEC(証券取引委員会)に対し「日本版SEC」や「SESC」と呼ばれる。現職を含め歴代5人の委員長のうち4人が検察出身。所管法令は旧証券取引法だったが、19年の改正法施行に伴い金融商品取引法となった。同法違反の主な罪名にはインサイダー(内部者)取引、相場操縦、虚偽有価証券報告書提出などがある。