強豪の高校生が小学生に年15回の野球教室 地域にファンを生み出す
地域に飛び出て、地域に根ざす野球部がある。 「いくよ!」 6月の日曜日。多治見工業高校(岐阜県多治見市)のグラウンドに小学生の歓声が響いた。 【写真】多治見工野球部のエースと対戦する子どもたち=2024年6月9日午後2時34分、岐阜県多治見市、高原敦撮影 多治見工の投手小松士心(しん)さん(3年)が、ふわりとボールを投げる。 小学生の女児がバットを振り抜くと強い打球が転がる。「ナイスバッティング」「すごい!」。野球部員がたたえた。 春夏とも甲子園出場の経験を持つ古豪は今、グラウンドの一部を地域に開き、小学生らを教える「野球教室」を年15回ほど開催する。多治見市など東濃地方の小学生たち約10チームが参加する。 「こっちで甲子園を目指して練習。こちらで部員と小学生が楽しく野球。こんな空間は珍しいはず」。6年ほど前から教室を続ける発案者の青木崇監督(40)は言う。 ■エースが野球の楽しさを伝え、試合の応援に来る子も この日は、市内の「根本クラブ」の11人がやってきた。多治見工の約50人のうち15人がこの日、「先生」に。残りの部員はいつも通り練習する。 多彩な変化球で春の県大会16強の原動力になったエース小松さんが、教室のリーダーでもある。 「子どもたちに野球が楽しいものだと伝えられるよう心がけています」と小松さん。3回目の参加の高橋蓮士さん(小6)は「特に打撃練習が楽しい。思い切って投げることも教えてもらった」。全力プレーの我が子を見守る保護者たちにも笑顔が広がった。 地域にファンが生まれ、多治見工に進む選手もいて、部員の2人が根本クラブの出身者だ。 「子どもの可愛い声が響くと、こっちの練習も雰囲気が良くなる」と青木監督。地元とのつながりは深まり、夏の岐阜大会を前に子どもたちが名前を連ねた色紙をくれたり、応援に来てくれたり。主将の成瀬煌大さん(3年)は「自分たちが教えた子が応援に来てくれるのはうれしいこと。もし今度の夏の大会も来てくれたら力になるし、『絶対に勝つ』という気持ちになると思います」と話す。 「地域に必要とされる野球部でありたかった」と青木監督。かつての「高校野球は厳しいもの」という風潮に疑問もあった。「野球は本来楽しくやるもの。みんなが楽しく、等しく野球ができる空気感でありたい」 選手たちが部活や教室を通して成長する過程に、甲子園がある、と青木監督は考えている。
朝日新聞社