実は「総理大臣選出」に絶大な影響力を持つようになった自民党員、日本は果たして議院内閣制の国と言えるのか
■ 自民党という組織の脆弱性 そこで浮かんでくる疑問が、「日本は本当に議院内閣制の国なのか」ということです。議院内閣制を少々乱暴に説明すれば、「一般の人たちが総理大臣を選べる制度にしてしまうと、選挙が人気投票化して、テレビによく出ている知名度の高いタレントが勝ってしまうなんていうことになりかねない。だから、よくものの分かった賢い国会議員たちが、自分たちの中から総理大臣を選ぶ制度にしよう」というものです。直接投票による大統領制との違いです。 実際に石破総理は、総裁選勝利の後に、衆参両院における記名投票で勝利し、首班指名を受けたわけです。形の上では石破総理は国会で選ばれています。 しかし、実際には議会の過半数を握る与党の総裁が首班指名されるのは自明の理です。ということは、実質的には自民党の総裁選で総理大臣は決まっています。10月27日の総選挙で自公の両与党は大敗しましたが、11月11日召集の特別国会で、石破首相は再び首班指名を受けました。野党側に本気で政権を取りに行く気概がなかったせいもありますが、それくらい自民党総裁のポジションは総理大臣に直結しています。 ということは総理大臣はすべての国会議員の投票によって決められているのではなく、自民党の国会議員や党員の投票によって決められていると言っても差し支えない状況なのです。その意味では議院内閣制は形がい化していると言えます。 一方、総裁選の仕組みが変わり、党員が持つ票の力が大きくなっているのであれば、有権者はどんどん自民党員になって、自らの判断で総裁≒総理大臣を選ぶことができます。 もっと言うなら、自民党以外の政党の党員たちが、大挙して自民党員になったら、かなりの権力を行使できる可能性があります。たとえば共産党の議員や党員が各選挙区で一生懸命に頑張って党勢拡大に励んでも、多くの議席を獲得するのはなかなか困難です。しかし党員が大挙して自民党員になって、総裁選で自分たちの考えに近い議員を集中的にプッシュすれば、もしかしたら総理大臣を直接生み出す力になれるかも知れません。自民党員になる要件というのがあるので、実際にはそう簡単ではないという声もありますが、他の政党の党員でないことなどの要件は、例えば共産党員を辞めたら(辞めたふりをすれば)良いわけであり、党員の紹介が必要というのも、誰か一人を篭絡すれば済む話で、さほど厳しい要件とは思えません。 実際、今回の総裁選で議員票をもっとも獲得した高市氏の陣営では、保守系の政治団体「日本会議」が積極的に応援に入り、党員票の掘り起こしに大きく貢献したと言われています。この文脈で、ネットもかなり活用したと言われています。ネトウヨなどの言葉もありますが、ネットの世界には、一定層の強い保守思想の方々もいます。総裁選決選投票での石破氏との差はわずかでしたので、「高市総理」の可能性も十分あったわけです。 ということは、想像したくはないですが、特定の外国勢力が、日本国籍を持つ人々を糾合して自民党員にさせてしまえば、その勢力の意向が総裁選を通じて、日本の国政に反映されてしまう可能性もあります。これは実は日本にとってかなり危険な状況です。 一般党員の声を総裁選により強く反映させようという理念は素晴らしいと思いますが、日本の議院内閣制は現在、それくらい実は脆弱なシステムになっています。これが自民党の弱体化と相まって、ますますその脆弱性は顕在化していくでしょう。最終的に自民党の影響力などが全然ない社会が仮に来るなら、その時は大して心配する必要はありませんが、冒頭以来、縷々述べて来ているとおり、途中の移行期においては少なくとも政界における自民党の影響力というのは大きなものであり続けるわけであり、大勢が見向きもしなくなる中で、一部勢力の相対的な力というのは増すことになります。議院内閣制の主旨を踏まえるのであれば、自民党総裁選の投票規定は少々考え直す必要があるのではないでしょうか。
朝比奈 一郎