実は「総理大臣選出」に絶大な影響力を持つようになった自民党員、日本は果たして議院内閣制の国と言えるのか
さらに私は予測しました。そして岸田首相不出馬で迎える総裁選。私は、小林鷹之氏の出馬もあるだろうと見ていました。まだ小林who? という感じの時期、春先に、ハーバード・ケネディスクールの同窓(全く同じ時期に留学していました)でもある小林氏に、私は「総裁選があったら出馬すべきだ」と伝えていました。国民は自民党に刷新感を求めている。叩いてもホコリひとつも出ないし(というと大げさに聞こえるかもしれませんが、極めて真面目でお金や女性にきちんとしています)、しかも優秀で政策通の小林氏はうってつけの人物だからです。私ならずとも、裏金スキャンダルで袋叩きの自民党で、そうした懸念がなく、刷新感を求めて中堅~若手人材を探すと、彼以上の役者はいないと見るのは当然だったと思います。 また総裁選公示後は、おそらく総裁選は決選投票にもつれるだろうと見ていました。そしてその決選投票は、小泉進次郎氏vs石破茂氏の構図になる。あるいはそこに急浮上の小林鷹之氏が割り込む。そして最終的には小泉氏が勝つ――というのが私のヨミでした。 ■ ヨミが外れた理由 だいぶいいところまでは読めていたと思うのですが、最後の決戦投票の構図――石破氏vs高市早苗氏――と、最終的な石破氏の勝利、石破総裁・石破総理の誕生までは見通せませんでした。 最後の詰めの部分の予想が外れた原因は、端的に言えば「党員票」です。一回目の投票で国会議員票のほうを見ると、最も票を集めたのは小泉氏(75票)で、高市氏はそこに肉薄していました(72票)。石破氏は46票で差をつけられていました。小林氏は41票で石破氏に次ぐ4位です。 ところが党員票では、高市氏(109票)、石破氏(108票)、小泉氏(61票)、小林氏(19票)でした。党員票では小林氏よりも林芳正氏のほうが多く獲得しています(27票)。 注目すべきは高市氏の党員票の多さです。石破氏は「地方に強い」と定評がありますので、党員票では石破氏がリードするかと思われていたのに、1票差とはいえ高市氏がトップに立ちました。逆に小泉氏や小林氏は、ここで石破・高市両氏に大きく差をつけられ、決選投票のステージに立つことができませんでした。高市氏が党員票を多く獲得しそうだという情報は、投票日が近付くにつれ頻繁に聞かれるようになりましたが、当初からここまで伸ばしてくると予想した人は少なかったのではないでしょうか。高市氏は決選投票で石破氏に敗れましたが、地方票の行方が総裁選の行方を大きく左右することをまざまざと見せつけてくれました。 かつて党員票には、ここまで総裁選の結果を大きく左右するパワーはありませんでした。では、なぜ党員票は力を持つようになったのでしょうか。そこには3つの理由が考えられます。 ひとつは、自民党を構成する人々の大きな構造変化です。 従来の地方政治の実態とは、国会議員という存在が厳然としていて、そこに系列の県議や市議が複数いる。そしてその国会議員や県議・市議を支持する一般党員がいる、というピラミッド型の組織でした。そして国会議員が「今回の総裁選はこの候補を推す」と決めれば、系列議員や党員は一致団結してその候補に票を投じる、というのが通例でした。 ところが自民党が大勝し、政権に復帰するきっかけとなった2012年の総選挙では安倍チルドレンと呼ばれる初当選組の国会議員が多数誕生し、党所属の国会議員の顔触れは大幅に若返りました。一方で県議や市議の顔触れは大きく変わらず、ベテラン化していきます。そして彼らを支援している党員たちも高齢化していきます。こうなると従来のピラミッド型の構図は崩れ、ベテラン地方議員やその支援者の党員たちは、若い国会議員に“お付き合い”することなく、総裁選でも自分の意思で票を投じる候補者を決める傾向が強まりました。そして高齢化した地方議員や党員の心に一番響いたのが、安倍政治の後継をアピールした高市氏だったのです。