K2 Pictures 紀伊宗之プロデューサー 「映画は儲からない」と言うのは日本人だけ【CINEMORE ACADEMY Vol.32】
“緩慢なる死”からの脱却
Q:今の日本映画界にある既得権益は、映画会社が会社を存続させていくために作ったもので、ある意味よく出来たシステムだと思います。実際その中にいた紀伊さんは、そのまま居続ける選択肢もあったのではないでしょうか。そこをあえて飛び出して、自分たちでリスクを背負おうとしている。それはやはり、クリエイターに寄り添った上でのアクションだったのでしょうか。 紀伊:その通りですね。三池監督の言葉を借りると、「日本映画界は“緩慢なる死”へ向かっている」んです。映画会社のサラリーマンになりたいという人は、一定数いると思いますが、カメラマンになりたい、照明技師になりたいという、いわゆる映画人になりたい人たちがいなくなっている。若い人たちがこの業界を目指さない。スタッフがいないから映画が撮れないということが現実に起こりつつあるんです。クリエイターも同じで、お金が稼げるゲーム業界などに流れていってしまう。 映画があるから映画会社があるのか、映画会社があるから映画があるのか、双方の言い分があるので、鶏と卵ですが、でも僕らは「映画を作れる人たちがいるから、映画会社はあるんでしょ」と、ちゃんと定義しようと思っています。 Q:(K2 Picturesが提唱するファンドによって)製作費が増えて、クリエイターのモチベーションがあがれば、それが面白い映画、ヒットする映画につながっていくと。 紀伊:そう感じています。あとは最初から世界を意識して、僕らが世界へ出すために努力をすること。クリエイターには“お題”が必要なんです。プロデューサーって、「2億で作ってくださいね」と制約は言うけれど、「あそこを目指そうぜ」という明確なお題は出さない。「このバジェットでやらなあかん!」という宿命の中で生きているのは分かりますが、どうクオリティを上げて、どこを目指すのか、そこはちゃんと指し示さないといけない。バジェットが掛かるんだったら、「その分俺が稼げばいいんでしょ」と思えばいい。 「予算にはまらない」と言うのはすごく簡単なんですよ。ただの計算だから何も考える必要がない。本来であれば「これをやると予算が5,000万は超過する、じゃあどうしよう?」と回収をどうするかを考えなければいけない。でもそれを言うと自分の首を絞めるから、誰も言わないんです。それを言わないことがクリエイターのフラストレーションになっていく。また、バジェットの中でやるから、スタッフが安月給で死ぬほど働く羽目になる。そこも改善する必要がありますよね。 Q:面白い映画とヒットする映画はイコールだと思われますか。 紀伊:イコールだと思います。でも今現在の状況で言うと、「面白い映画がヒットするとは限らない」と言う方が正しいのかもしれない。ただ、本質的に言うと、面白い映画はヒットするに決まっているんです。驚くほど面白ければ絶対にヒットする。そういうものを生んでいかなきゃいけない。「アメリカ人が面白いと思うものを作ろう」というのも一つの方法だと思いますが、驚くほど面白いところまでいくと世界中の人が面白がると思うんです。半端に面白いから、マーケットギャップが出てくるんじゃないかなと思います。やっぱり世界を目指してやりたいですよね。
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