体験が多いほうが子どもの「学力」や「自己肯定感」は上がる? 学力調査に詳しい専門家に聞く“研究結果”とは
このように体験が多いと、 ・学びに対する意欲や人間関係を良好に保つ意識、自尊感情といった「非認知能力」が育まれる機会が多くなる ・自分の興味や強みを発見しやすくなる ・他者との協力やコミュニケーションを通じて、社会性が身につきやすくなる ・成功体験や失敗体験から、自分を客観的に見つめる(メタ認知)力のスキルが向上する ・体験から得られた知識やスキルが、学校での学習にも直接役立つ といったよい影響をもたらします。 ■「体験格差」を心配する声も… ――子どもの体験の多い・少ないに差が出る「体験格差」があるとも最近言われています。 「体験格差」というのは「子どもが選ぶことができない条件」によって体験の機会に差が生まれることをいいます。その条件というのは「性別」「親の収入や学歴」「住んでいるところ」などがあげられます。 これらは残念ながら子ども自身の努力では変えることができません。例えば、「地方に住んでいるので、都心にある博物館や美術館にはなかなか行けない」「子どもは中学校で運動部(例えば野球部)に入りたいと言っているが、ユニホームや活動費にとてもお金がかかるので、家庭の経済状況では難しい」といった状況が考えられます。 実際に「親の世帯年収が高いほど子どもの自然体験は多い」というデータもあります。キャンプや自然体験イベントの参加にはお金がかかるという事情が反映されているのかもしれません。 現在、子どもの体験格差を埋めるべく、さまざまな団体が支援を行っています。今後、そういった動きがより一層活性化されることを期待しています。また、地域のイベントや気軽に参加できるボランティア活動なども増えていますが、学校でチラシを配布するなど多くの方々にそういった情報がいきわたるようにすることも大切です。より多くの子どもたちに豊かな体験をさせてあげることが、社会全体のウェルビーイング(幸せ)につながっていくと思います。 (取材・文/船木麻里) 〇浜野 隆/お茶の水女子大学基幹研究院教授。専門は教育社会学・教育開発論。文部科学省委託の「学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」の研究代表として家庭環境と学力・非認知的能力の関係を分析。『子どもの才能を伸ばす 最高の子育て』(ソシム)など著書多数。
船木麻里