〈トイレまで付き添い〉〈職員は廊下で仮眠〉児童相談所「超激務」で千葉県を訴えた元職員男性の「決意」
現状を知ってほしい
それ以降、記憶障害や身体を動かせないほどの倦怠感に悩まされたものの、半年後に完治していない状況で復職を試みる。施設と面談し、研修制度や休憩時間の確保などを交渉したものの、結果的に希望が通ったのは夜勤の免除のみだった。変わらぬ運営体制に限界を感じ、飯島さんは復職した1ヵ月後に再度休職。そのまま2021年11月に退職した。 児童のため働く道を閉ざされ、かつての職場も労働環境改善の兆しが見えない。辞めた同期や、施設で面倒を見た児童の顔も思い浮かぶ。自身が抱えた蟠りをどう解消すればいいか、どうすれば一時保護所の環境は良くなるのかーー。悩み考え抜いた末に、飯島さんは千葉県への提訴を選択した。 「私をはじめ、千葉県の児童相談所では、精神疾患で長期休養する若い職員が増加の一途を辿っています。同時に、2023年の採用人数は定員割れを起こし、入所児童もゆうに定員超えの施設が大半です。 もちろん労働環境の是正を訴えることで、児童相談所の職場環境が悪いと印象付け、職員が現場を離れてしまう懸念もある。それでも日に日に逼迫していく状況に歯止めをかけるためには、誰かが声を上げるしかない」 こうして2022年7月に、残業代や休憩時間の賃金未払いと、うつ病を発症するほどの精神的苦痛に対する慰謝料の約1200万円を求めて、千葉県を提訴した。 「もちろん損害賠償が降りるに越したことはありません。ただ、一個人が千葉県を相手に行政訴訟をしても、勝算は限りなく低いはず。それを見越したうえで闘うのは、裁判を通じて、児童相談所の差し迫った環境を周知するためです。 それに判例が出れば、私以外に苦しんでいる職員の未払い賃金も払われやすくなるはず。他の施設でも、休憩時間に働いているにもかかわらず、給料が発生していない施設が大半と聞いています。もう自分は職員に戻ることは難しいですが、それなら裁判で矢面に立ち、業界改善を訴えていきたいと思います」 裁判は第一審の最中で、判決が明らかになるのは早くても来年だ。判決に納得できなければ、控訴も辞さないという。現在の飯島さんはうつ病の後遺症から2ヵ月に1回の頻度で通院し、定職に就けない状況が続く。それでも、同じような悲劇が繰り返されないために、今回の裁判を全うする決意が飯島さんにはある。
佐藤 隼秀(ライター)