〈トイレまで付き添い〉〈職員は廊下で仮眠〉児童相談所「超激務」で千葉県を訴えた元職員男性の「決意」
職員は廊下で仮眠
「急激に児童が増加した背景には、2019年1月に、千葉県野田市で、女児が両親から虐待死された事件が関係していると分析しています。当該の女児は、千葉県の柏児童相談所に預けられていたことで、マスコミに施設側の対応の是非が大々的に報じられた。 その影響からか、児童相談所が子どもたちを家庭復帰させることに慎重になって、一時保護所内で渋滞が起こったと見ています。厚生労働省による当時の説明では、千葉県の児童相談所における平均入所日数が長期化している事実もありました」 当然、入居児童が増えれば、喧嘩や体調不良などのトラブルも頻発する。児童を病院に連れて行けば、そのぶん穴が空き、児童を監視するための負担も大きくなる。日中は息をつく暇もなく動き、夜勤では児童の記録などを書く時間にとらわれる。 千葉県が裁判で提出した準備書面では、5月の残業時間は29.5時間と記載されていたものの、休憩時間も実質働き詰めであったことから、「実質的な残業は70~80時間ほど」と飯島さんは振り返る。 「5月に入ると、日勤では3~4時間の残業を繰り返し、夜勤に至っては24時間以上の拘束は当然、時には27時間の日もありました。それでも運営が回らないこともあり、5月中旬に施設内で胃腸炎が流行った時期は壮絶でした。毎日、児童を病院に連れて行くのも2~3人が限界で、深夜もずっと高熱や吐き気でうなされている児童の面倒を見ないといけない。 入所児童の定員が倍だったため、通常なら4人で使う寝室も、8人で使用している状態に。我々職員が仮眠するスペースも廊下で、そもそも職員の人数分の布団すらない状況でした。多忙による苛立ちもあり、必要以上に児童を厳しく叱ってしまう瞬間もあった。自分はなんのために福祉の仕事をしているのかと、自己否定も強くなっていきました」
「ここは刑務所みたい」
モチベーションを削がれる中で、さらに心を締め付けられたのが、児童の日記だった。 「児童の日記を読み返すと、『ここは刑務所みたい』『退屈でしんどい』と正直な声も目にします。窮屈さを感じている声を聞くと、本心は自由にさせてあげたいと思いながらも、職員としては厳しくしないといけない葛藤に悩まされました。 一方で、施設に保護されて良かったと打ち明ける児童ももちろんいますが、その声を額面通りに受け止めることはできないんです。『虐待や生活苦に比べたらマシ』という意味もしれませんし、職員の期限を伺っているだけなのかもしれない。 特に、虐待経験のある児童は、過去のトラウマから大人の機嫌に敏感な児童も多く、本心で話してくれているのかは不透明です。本来なら児童を安心させてあげるのが役割なのに、逆に気を遣わせてしまっているのではないかと心苦しくなりました」 しかも虐待経験のある児童は、過去のトラウマから大人の機嫌をうかがうことも多く、本心で話してくれているのかもわからない。本来なら児童を安心させてあげるのが役割なのに、逆に気を遣わせてしまっているのではないかと心苦しくなりました」 「児童のため」と責任感を背負うばかりに、より自身に跳ね返ってくる無力さも大きい。自分が犠牲になるか、児童を犠牲にするかーー。 究極の狭間で葛藤し続けたことでストレスが溜まり、飯島さんの心身は徐々に狂い始めていく。月4~6回の夜勤で自律神経は乱れ、不眠や食欲不振に陥り、休日があっても疲れがとれなくなってしまった。 「勤務中あっという間に時間が過ぎ、退勤後は疲れすぎて何もできなかった。仕事のことがよぎって寝付けず、通勤時は心臓がバクバクと動悸を繰り返す。そんな状況で、騙し騙し出勤を続けていました」 入庁から4ヵ月が経とうとしていた7月末、夜勤へ向かう通勤時に、急に駅で足が動かなくなり、そのまま欠勤の連絡を入れたのは前述の通りだ。心療内科では、重度のうつ病と診断され、休職せざるを得ない状況は明らかだった。