新教育長を創設 教育委員会の制度改革で教育は変えられるか
今通常国会への法案提出に向けて焦点となっていた教育委員会制度の改革について、自民党案が固まりました。従来通り教育委員会を教育行政の最終的な権限を持つ「執行機関」と位置付ける一方、教育長と教育委員長を一本化した新「教育長」(仮称)の任期を2年(現行4年、罷免にも制約)に短縮して首長が当選後、速やかに新たな人物を任命できるようにするとともに、首長が主宰する「総合教育施策会議」(仮称)で教育行政の大綱的な方針を定めるとしています。公明党もこれを受け入れる見通しです。こうした制度改革で、本当に「どの地域でも責任ある教育行政が可能となる体制」(教育再生実行会議の第3次提言)が築けるのでしょうか。改めて、これまでの議論を振り返りながら考えてみましょう。 【図解】現行の教育委員会制度の仕組みは?
どこを教育行政の執行機関にするか
もともと実行会議の提言は、教育行政の責任を明確にするため、「首長が任免を行う教育長」を責任者とすることを求めたものでした。政治的中立性を確保するために、教育委員会を諮問機関やチェック機関のような組織に替えて残す案さえ示していました。この段階では、首長の関与を強めるべきだという提言ではなかったことに注意する必要があります。 議論の場が中央教育審議会の教育制度分科会に移ってから、法的な位置付けとして教育行政の執行機関をどこにするのかが問題となり、議論の流れが一時、教育委員会を「性格を改めた執行機関」として残す方向に固まりかけたことがありました。その時、安倍首相に近いと言われるジャーナリストの櫻井よしこ委員が「どう考えても戦後の教育はおかしい。納得いかない」と発言。約2時間の論議を黙って聞いていた義家弘介政務官(当時)が最後のあいさつしで櫻井発言を引き受ける形で「(教委制度は)私は初めから欠陥のある無責任な制度だと思っている」と述べました(昨年8月22日)。
首長は「独走」するのか
振り返ってみると、この日の会合を境に、首長を執行機関とする後のA案(制度改革案)をメーンにする流れが決定付けられたような気がします。しかし、それでは首長の権限が強くなりすぎて政治的中立性が保てなくなると強硬に反対した教育関係者系の委員に配慮して、教育委員会を執行機関として残すB案(別案)も答申に付記することになったわけです。 ただしA案を強く推していた首長系の委員にしても、必ずしも自分たちの思い通りに教育行政を行いたいと主張していたわけではありません。森民夫・新潟県長岡市長に代表されるように、「首長が教育予算をつける時には、必ず教育長と話をしてきた。首長は教育の素人なのだから、必ず専門家である教育長に相談するはずで、独走するわけがない。一方で訴訟になった時、自治体を代表して訴えられるのは首長。実態を合わせるべきだ」というのが、主な理由でした。
首長権限を強めたといえる自民案
「C案」とも言うべき自民党案は、制度的には首長の権限を強めるものと言えるでしょう。ただ、同様のことは大阪府・市で既に行われていますし、教育長出身の門川大作・京都市長も「現行でも首長は相当のことができる」と中教審で指摘していました。どんな制度であるにせよ、結局は制度を運用する人次第、ということになるのでしょうか。 (渡辺敦司/教育ジャーナリスト)