喉から手が出るほど欲しかったクルマを手放した理由はお金じゃない! やっぱり人は身分相応なクルマに乗るべきか?
RSに乗せられてるような光景に落胆
と、ここまで書くと「ははぁ、貧乏編集者が無理してポルシェ買って、車検代にも事欠いたに違いない」と察する方もいらっしゃるでしょう。が、憎たらしいことにお金が原因じゃないんです。幸い、こっそりやってたブローカー業務でもってRS買えるくらい、新品タイヤ買えるくらいの稼ぎはあったのですよ。 身分不相応だと感じたのは、とにもかくにもサーキット走行をした際のこと。頭のなかではポール・フレール先生や名手ハンス・シュトゥック、はたまたステファン・ローザ的なカウンターステアばりばりの走りをイメージしていたものの、そんなアグレッシブさは微塵も発揮できず、グリップ走行をしたとしてもタイムが一向に伸びないのです。 周囲はすでに993RSがちらほら走っていたりなんかして、あるいは964ターボ2なんかもブイブイいわしてるわけで、世界に1台! なんて自慢だって走りの世界じゃめっきり通用するものじゃございません。こんなはずじゃなかった! と、歯ぎしりしたってコンマ1秒も縮まるわけじゃなし。レカロのバケットシートでうずくまり、涙のひとすじも流れようというもの。 結局、プライドと後悔が「世界に1台」を上まわり、自分にとっては不相応だと判断。RSは下取りに消えていったのです。早めの決断が奏功したと思ったのは、手放してから数年後にサーキットイベントでそのRSに再会した際のこと。懐かしいツェルマットシルバーRSを眺めていると、ボンネットフードとバンパーのチリがほんのわずかに合っていません。よくよく見れば右フェンダーも板金塗装されたこともわかりました。そこで「あのまま無理して走らせてたら、オレが事故っていたかもしれない」と背筋が凍る思い。 リベラル派がなんといおうと、クルマの世界には身分や応分という概念は厳然と存在するのです。悪いこたぁいいません、命あっての物種ですから、くれぐれも皆さまも背伸びした走りにはご用心、ご用心(笑)。
石橋 寛