メタ、欧州利用者データでAI訓練 プライバシー懸念
米メタが自社サービスで欧州ユーザーのデータを活用し、AI(人工知能)モデルの訓練を始めると明らかにした。欧州でサービスの質を高めていくためには不可欠な措置だと説明している。一方、欧州のプライバシー擁護団体はこの動きに猛反発している。 ■ 欧州でAIアシスタント「Meta AI」を訓練 メタによると、同社は2024年5月に欧州の利用者20億人に対し、プライバシーポリシー変更に関する通知とオプトアウト方法の説明文を送った。ポリシー変更日は24年6月26日で、その直後から欧州ユーザーの投稿情報を対象にしてAIの訓練を始めるもようだ。 対象となるサービスはSNS(交流サイト)「Facebook」と写真共有アプリ「Instagram」で、一般公開用に投稿されたコンテンツを大規模言語モデル(LLM)の「Llama(ラマ)」の訓練に使う。ユーザーが共有範囲を「自分のみ」、もしくは「友人のみ」に限定したコンテンツは使用せず、友人間でやりとりしたメッセージも対象外になる。18歳未満のコンテンツも使用しないとしている。 その用途は同社が開発する生成AIベースのアシスタント「Meta AI」だ。この分野では、「Chat(チャット)GPT」を手がける米オープンAIや「Gemini(ジェミニ)」を手がける米グーグルが先行しており、メタは新しい基盤技術「Llama 3」のMeta AIで挽回を図る。 ■ プライバシー保護団体「noyb」が猛反発 米ニューヨーク・タイムズ(NYT)によると、メタはオンラインプライバシーに関する規制が欧州ほど厳格でない米国で、公開投稿を用いてAIを訓練している。だが、メタの取り組みは、ユーザーに個人情報扱いの権限を与える欧州連合(EU)の厳格なデータ保護規制によって難航しているという(米ABCニュースの記事)。
メタは、Facebook、Instagram、対話アプリの「WhatsApp」にAIアシスタント機能を導入しているが、これは現在、米国などの13カ国に限定されており、欧州では利用できない。 こうした中、オーストリア・ウィーンに拠点を置く非営利プライバシー保護団体「noyb」がメタのプライバシーポリシー変更に猛反発している。英ロイター通信によると、noybは24年6月初旬、メタがユーザーの同意を得ずに個人情報を利用できるように動いているとし、欧州11カ国のデータ保護当局に差し止めを求めた。11カ国とは、オーストリア、ベルギー、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、アイルランド、オランダ、ノルウェー、ポーランド、スペインである。 noybは、「メタの自社規則変更により、過去何年もの個人的投稿や私的画像、オンライン追跡データが勝手に使われてしまう」と批判。「通知では不十分だ。ユーザーから事前に同意を得る必要がある」(noyb)と強調した。 ■ メタ、noybの批判に反論 これに対しメタは「欧州ユーザーの公開コンテンツでモデルを学習しなければ、AIは重要な地域言語、文化、ソーシャルメディアのトレンドを正確に理解することができない」と反論している。 欧州の言語、地理、文化的な背景や判断基準をより正確に反映するためには、ユーザーの公開データが不可欠だと説明している。 メタのプライバシーポリシー担当グローバルエンゲージメント・ディレクターであるステファノ・フラッタ氏は「欧州の豊かな文化、社会、歴史的貢献を反映していないAIモデルは、欧州の人々にとって不利益になる」と強調している。
小久保 重信