「よそもの」であるが故に気づくこと。NYで活躍する漫画家が表現する、''枠からはみ出た''物語
関心と愛着を持ってその場所を眺めたとき、その視点に価値が生まれる
タイトルのピーナツバター・シスターズは、アメリカ移民二世の三姉妹だ。父親が、伝統的で皆に愛される名字が欲しいと母国名を捨て改名し、一家の名字はピーナツバターである。姉妹は、あちこちで拾ったり盗んだりしたものをオークションサイトのeBayで売り生計を立て、風や鯨に乗る特殊な能力を持っている。ある日、ニューヨークからジョージア州沿岸部の家に帰るために鯨に乗ろうとするが、海が汚染され鯨に会うことができない。 他には、ニューヨークの大学に通う日系人とアフリカン・アメリカンの学生が、単位補修のため、学校帰りに能楽の脚本を作る物語がある。日系人の学生が「その気になれば能は何からでも作れるし、日本人になる方法だってたくさんあるんだ」と言い、アフリカン・アメリカンの学生と、ニュータウン川沿いを仲良く歩く。ニュータウン川は、排気毒素や石油流出事故、また未処理の下水などにより、アメリカで最も汚染された川の一つだ。 ひとりひとりのアイデンティティは、きっと生命そのもののように複雑で美しい世界だが、社会の枠組みはそういった人間の本質に対応できているわけではない。ハラさんの作品は、ユーモアを使いながら、さまざまなステレオタイプを心地よく崩し、読者に「新しいリアリティ」を感じさせてくれる。そういった新しい世界を形づくる背景や視点について、インタビューで話を聞いた。
話者プロフィール:ハラ・ルミ 1982年京都生まれ。大阪、アトランタなどで育ち、Savannah College of Art and Design より修士号を取得後、2014年からニューヨークにて活動する。The New York Times、The New Yorker などに掲載のコミックやイラストを制作しながらSchool of Visual Artsなどで講師も務める。現在は尾道市在住。著書のNori(2020)、The Peanutbutter Sisters and Other American Stories (2022)はイグナッツ賞にノミネートされ、ニューヨーク公共図書館のベスト・コミックスに選ばれるなど高い評価を得ている。