「あれはファウルだった」 天覧試合で長嶋茂雄にサヨナラホームランをくらった「村山実」が生涯言い続けた言葉の意味(小林信也)
4球目で三振だった?
天覧試合は、新人ながらそうした快投・悔投を重ねた後に訪れた大舞台だった。 それにしても、なぜ「あれはファウルだった」と生涯、村山は言い続けたのか? 読売新聞はこう書いている(2010年6月22日)。 〈初球はボール、2球目はストライク。3球目に長嶋は反応したが、浮き上がるような剛速球に押されてファウル。追い込んだ村山は三振を狙った。得意のフォークが低めへ決まった――と思われたが、際どいハーフスイングで判定はボール。山本が述懐する。「速球はうなり、フォークは捕るのも難しい落差。4球目、長嶋さんのバットは止まっていなかった。三振です」〉 本当は「空振りだった、長嶋との勝負はついていた」と村山は叫びたかった? が、主審はセ・リーグ審判部長の島秀之助。三振だったと強弁すれば島への冒涜になる。まして陛下の御前で抗議などご法度。そこで批判にすらならない方に矛先を変え、「ファウルだ」と言い続けた、そんな気がしてきた。 小林信也(こばやしのぶや) スポーツライター。1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。 「週刊新潮」2024年6月27日号 掲載
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